創刊0号からスタートした星野リゾートのサブブランド戦略と滞在価値づくりの取り組みの実践を紹介する本連載。2回目は「リゾナーレ」。なかでも「アグリツーリズモ」をテーマに独自の施設運営で異彩を放つ「リゾナーレ那須」を見ていきたい。改めて紹介すると、星野リゾートには「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO」「BEB」「LUCY」の5つのサブブランドがある。本誌特集ページで紹介している「星のや」の、圧倒的な非日常にある「特等席」を提供するラグジュアリーもある一方で、立地する場所、旅のシチュエーション、顧客層のニーズに対応し、ターゲットや施設コンセプトを明確にしてブランドが分類されている。本号で取り上げる「リゾナーレ」はどのような価値を生み出しているか、見ていきたい。
『Wellness Business』通巻1号(2025年11月25日発行)連載「星野リゾートのサブブランド戦略とウェルネスプログラム研究」記事を転載
夢中になって楽しみ尽くす「PLAY HARD」が、リゾナーレのコンセプト
「リゾナーレ」は、星野リゾートが国内外に展開するリゾートホテルブランドだ。コンセプトは、夢中になって楽しみ尽くす「PLAY HARD」。土地の特性を活かした空間デザインや豊富なアクティビティ、地域や季節ならではの体験を通して、訪れる人に、想像を超える滞在と心に残る旅を提供することが目指されている。現在、国内外で7施設(八ヶ岳、トマム、熱海、那須、小浜島、大阪、グアム)を展開しているが、2025年12月には九州・山口エリア初進出となる「リゾナーレ下関」が開業する。また2027年には「リゾナーレ福井」の開業も発表されている。
今回紹介する、「リゾナーレ那須」は、2019年11月1日に、既存していた施設に再投資して開業した、リゾナーレブランド4施設目の施設だ。那須の豊かな自然のなか、農の生産活動に触れる体験を軸に、リゾートホテルでの食事やアクティビティを楽しむ「アグリツーリズモリゾート」をコンセプトに滞在が提案されている。
このアグリツーリズモとは、イタリア語でアグリクルトゥーラ(農業)とツーリズモ(観光)の造語。都会の喧騒から離れ、農体験や自然体験、文化交流を楽しむ観光の形を表すものだ。新たな旅のスタイルとして、星野リゾートらしさ溢れる独特な農体験に触れることができるのが特徴となっている。
那須では、8,500㎡の田んぼ、年間で120種類以上の野菜やハーブを生産する畑をもつ「アグリガーデン」が展開されている。さらに詳しく、どのようなプログラム提供をしているか、総支配人森田崇之氏の取材をもとに見ていきたい。
「リゾナーレ那須における「アグリツーリズモ」戦略
那須には、田んぼや畑などアグリガーデンのほか、43室の宿泊棟、メインダイニング、ビュッフェレストラン、大浴場のほか、3つの円錐形が連なる独自の建築デザインのBooks & Cafe「POKO POKO」がある。POKO POKO は、Books & Cafeや子ども遊具、石窯で焼き上げるピッツァづくり体験などのほか、季節を感じる各種体験メニューが導入されており、施設内を楽しむ拠点の1つとなっている。

那須に2025年初頭から総支配人に着任した森田氏は、星野リゾートに入社後約18年間にわたり、東京本社のマーケティング部門にて、「リゾナーレ」ブランドをマーケティングの視点から深く関与してきた経緯を持つ。2024年以降は現場運営にも携わり、2024年リゾナーレ小浜島を経て、那須の現場を見て、「ホテルサービススタッフが、農作業や稲作に真剣に向き合う、特殊な施設」という。
アグリガーデンでは、毎日何らかの収穫ができるよう生産の計画が工夫されている。農園管理するのは、星野リゾートのスタッフで、地域の生産者にアドバイスをもらいながらも、自力で耕うん、肥料づくり、種まき、収穫などの一連の農作業を実装している。もちろんスタッフはマルチタスクな組織のため、ホテルのサービス業務を行いながらである。

開催されるプログラムの1つ「ファーマーズレッスン」は、宿泊者に農業体験をしてもらうアクティビティであるが、「農業体験を宿泊者にしてもらうというよりは、その日に必要な作業をスタッフと一緒に行ってもらっている、というのが実際のところ」(森田氏)という。ファーマーズレッスンでの農作業はその日により変化する。多岐にわたる野菜やハーブの説明、収穫できるタイミングなどは、ある程度経験を積まないと難しい。しかし那須のスタッフは、移動して着任し農作業に携わると、すぐに興味を抱き、内部の農業の勉強会等に積極的に参加し、自立的に学んでいくという。
基本雨の日も体験は休むことなく、畑横にある温室「グリーンハウス」のなかで生産されるハーブ等を種まきしたり収穫したりする。2棟あるうちの1つのハウスでは、オリジナルハーブティを飲む楽しみや、農家の手仕事など創作のアクティビティが提供され、通年で農業に触れることができる。


また魅力の1 つとして、収穫した野菜をその場でグリルし、食すことができる屋外ブランチ「YATAI to FARM」を実施している。今年から通年で開催し、冬もアクティビティとして提供していく。自分で収穫した野菜の味は格別であり、グリルされた出来立ての料理をその場で食べられる食体験は魅力の1つになっている。
栽培したお米はリゾナーレ那須内のレストランで安定提供へ
さらに田んぼも興味深い。開業時には「ここで田んぼをしたい」と言う目標を掲げ敷地だけ示されたが、2019年には白米の生産を始めた。初年度は600kgからのスタートで、2021年1,260kg、2022年1,560kg、2023年1,680kgと収穫量を増加させていき、2024年2,130kgと、リゾナーレ那須のなかのレストラン2カ所で年間を通じて安定的に提供が可能な量が生産できた。
「宿泊者に稲作作業を一緒にやってもらう」という考えは畑と同じで、2021年から「お米の学校」として、田植え、稲刈り、脱穀・精米作業の3回の作業のタイミングで、宿泊者に参加体験できるアクティビティとして提供している。今年も、2025年も5月3日から10月26日までの期間に行い多くの宿泊者が体験した。作業体験後には羽釜で炊いたおにぎりが楽しめる。作業に参加した宿泊者には、精米したお米を少量ながら送るサービスも行っており、好評だという。
このような安定した収穫量がこれからも永続的に確保できるかは、天候など自然の影響などもあるが、まずは敷地内で育てた農産物やお米を宿泊者に提供するという難しい活動のハードルは超えることができ、アグリツーリズモリゾートの活動は実現できた。
今後もこのような体験価値を軸に、滞在の魅力開発を進めるが、より収穫できる農作物を増やしていきたいという。
実際に顧客の声からは「農業体験で身体を動かせてよかった」「生産された産物が楽しめた」などの感想が寄せられるという。その結果、「農生産の体験は、那須のリピート率を高めている。これは農作業に参加すると、次の作業にも参加したい、自分が植えた種がどうなっているか気になる、という意欲が湧くようだ」という効果が表れているという。

ブランドコンセプトは常に見直し適正に転換させる
常に新しい滞在の魅力を生み出し、競合するリゾート施設とのコモディティ化を脱する企画や取り組みを実行してきたことが、星野リゾートの成長を支えてきている。また、時代の流れも見ながら、コンセプトが時代に沿っているのか見直しも行っている。
リゾナーレブランドも、星野リゾートが運営を開始した2001年当時のブランドコンセプトは「大人のためのファミリーリゾート」だった。「ファミリーリゾート」などと示すと限定されたようなイメージにならないか、顧客に伝わっているのかなど、常にブランドが適正に機能しているか考えてきている。
そこでリゾナーレは、2023年、ブランドの再定義を実行、導き出された新コンセプトが「PLAY HARD(プレイハード)」であった。このコンセプトは、「子どもだけでなく大人も本気で楽しめる体験を提供する」ことを主眼としており、単なるリラックスできるリゾートから、リフレッシュ・自己解放の場としてのリゾートを目指していこうという考えからである。「大人向けの知的好奇心を刺激するコンテンツや、親子関係を深める共創型体験の充実を通じて、持続可能かつ差別化されたリゾナーレブランドの価値の確立を目指していく」と森田氏は言う。
他のリゾナーレでも、トマムでは牧場で乳製品を提供するなど価値ある体験が提供されている。この連載で機会を見て紹介していきたい。

DATA
リゾナーレ那須 施設概要
所在地:栃木県那須郡那須町高久乙道下2301
開業日:2019年11月1日
客室数:全43室(本館・別館含む)
敷地面積:約14万㎡
主な施設
本館:
・客室、レセプション
・ビュッフェレストラン「SHAKI SHAKI」
・大浴場(那須温泉)
別館:
・客室
・アグリガーデン グリーンハウス2棟や畑での野菜・ハーブの栽培田圃
・メインダイニング「OTTO SETTE NASU」
・Books&Cafe:「POKO POKO