事業用不動産・空間に、「ウェルネス」は重要なキーワードとなってきた。「どうウェルネスを取り込むのか」「ウェルネスは空間価値向上にどう結びつくのか」「差別化として持続するのか」という問いも少なくない。こうしたなか、オフィス・ホテル・商業施設・医療施設等の内装企画・デザイン・設計・施工等を行う、三井不動産グループの三井デザインテック株式会社は、ウェルネスを主観的なテーマにとどめず、空間にいる人の価値にしていく設計・デザインへと落とし込む独自の空間開発思想を打ち出し実践を進めている。この考え方は、オフィスをはじめとしたさまざまな空間で展開され、近年ではホテル分野へも広がりを見せている。
自社のオフィス改革で社員の満足度を研究し、事業へと活かす

同社は、2021年7月の本社移転を機に、社員のWell-Being向上と生産性の最大化を目指して、固定席はなく、業務の内容に合わせて多様な環境を選んで働く「ABW(Activity Based Working)」を取り入れたオフィス環境、部署を越えた交流の促進を目指した企業体制の創造等、空間改革を実行した。社員の個性や専門性を掛け合わせていこうということから「CROSS OVER Lab」と名付けられた最先端オフィスでの業務開始から3カ月後の調査では、働き方や環境面について、社員から高い評価や満足度が表れていた。
しかし、移転2年後の2023年6月に同じ調査を行うと、満足度が低下しているところもあった。出社率の上昇や社員数増加、環境への慣れによる固定化など、柔軟な働き方が機能しづらい状態になり、描いてきた部署を超えた交流の向上に向けて働き方、働く環境のアップデートを検討した。

2025年10月には「CROSS OVER Lab」の一部リニューアルを実施、スペースの整理に加え、運用面の改善にも着手した。社内活動を自然に可視化・発信する情報拠点として「アンテナ」の新設や、社員が次に挑戦したいテーマを共有するアートの制作。あわせて、没入型の体験を通じて協創を促すイマーシブ空間「MIRISE」も新設。グリーンと自然光に包まれたウェルネス空間「SUNROOM」や、テラスに緑やデスク、菜園を備えた「SORANIWA」といった既存空間についても一部改修を行い、より社員がWell-Beingを感じられる空間へとアップデートしている。短時間で集中した議論を促すスタンディングエリアや半個室席、オンライン用ブース席など多様なワークスペースのバリエーションを拡充。ABWの効果を最大化するオフィスへと再整備を行った。そして、さらなる交流や協創を促進する役割として、「コミュニティマネージャー」を専任で配置。ハードの刷新に加え、人のつながりを育てる環境づくりを進めている。
なお、同社は心理学者でワーク・エンゲージメントの専門家である北里大学一般教育部島津明人教授(2019年当時)、日本のクリエイティビティ研究の第一人者である東京大学大学院経済学研究科稲水伸行准教授と共に、産学共同研究として「ABWに関する調査研究」を行っており、ABWはそれ以外の環境と比較してワークエンゲージメントやパフォーマンスが高く、ストレスが低いといった、従業員のWell-Beingという観点でもポジティブな実証結果が得られている(下図参照)。

同社のオフィス自体がABWの実践の場(ショーケース)であり、顧客へ提案するオフィス空間のモデルとしても活用されている。
「働く環境におけるWell-Beingの実現には、働きやすさはもちろん、「場」をとおして、企業としての存在意義を伝え、同じ組織メンバー同士の信頼関係を醸成すること、人と人としての繋がりを創出すること、それによって存在意義を意識できる「働きがい」の創出が必要」と、同社スペースデザイン事業本部ワークスタイルデザイン室コンサルティング第2グループシニアコンサルタント木村保之氏は話す。Well-Beingを軸とした手法は、利用者の滞在体験の質を高めるアプローチとして、多様なアセットにも展開されている。ホテル分野においても、同様の考え方に基づいた空間づくりや体験設計が進められている。
ウェルネスルーム「ルスツリゾートホテル&コンベンション」の取り組み

同社は、多様なホテルの企画・設計・デザインに実績を持つが、ウェルネスをテーマに取り組んだ実例としてあるのが、北海道・留寿都村で加森観光株式会社が経営する「ルスツリゾートホテル&コンベンション」(以下、ルスツ)のウェルネスフロア(2023年12月リニューアルオープン)だ。
加森観光は、ウェルネス機能強化で、滞在価値を高めたいと考え、ルスツのワンフロアを、ウェルネスをテーマとした高単価の客室に改修することを、同社へ依頼したものだ。計画に当たっては、水・光・火・音響・香りに加えて、デジタル・自然を融合し、五感に作用する体験・演出を企画した。

同フロアには30室の客室があったが、客室規模を広げ14室へと改修し、2室をプレミアムスイートへ、12室(66㎡)をスイートに改修を提案し実行した。プレミアムスイートは、3室を1室に統合し約100㎡の客室に改修した。「ウェルネスの価値を出せる実現可能なアイテムをすべて取り込んだ」と話すのは、同社クリエイティブデザインセンターデザイン1部第3グループデザインディレクター山野奈緒氏だ。
客室内に、サウナ、大型ユニットバス、水風呂、酸素カプセル、暖炉などのほか、多くの生植栽を配置。バス水面には映像・照明・音の演出を施し「唯一無二のイマーシブ体験ができるウェルネスSPA」となった。
スイートも個性豊かなデザインを投入、また、ホテル付帯設備にフィットネスジム&スタジオ、ウェルネスカウンセリングルーム等の「ウェルネスセンター」も整備された。
ルスツのウェルネスフロアのデザインは世界的に注目され、「日本空間デザイン賞ショートリスト」入賞、「Sky Design Awards 2024」のインテリア・デザイン部門で「Bronze」受賞したほか、国際的に権威あるデザイン賞「iF DESIGN AWARD 2025(アイエフ・デザイン・アワード2025)」も受賞した。
ウェルネスデザイン空間は資産価値と滞在価値を最大化する

山野氏は「私たちは単に美しい空間を作るだけでなく、ウェルネスに特化することでリゾート全体のブランド価値を確立し、施設全体の魅力を引き出すことを目指しています。その空間設計において、今私たちが向き合っているテーマは、『裏付けのある体験設計のもと、ポジティブな変化をもたらすデザインとは何か』を、導き出すことです。滞在によって得られる変化の理由を明確にできれば、私たちが手がける空間が、単なる装飾ではなく『なぜ投資に値する価値を持つのか』を確信をもって語れるようになります。それは、これからの開発やリブランディングを検討するパートナーの皆様にとっても、進むべき道を照らす大きな指針になると考えています」と語った。

三井デザインテック株式会社
・名称:東京都中央区銀座6-17-1 銀座6丁目-SQUARE
・事業内容: オフィス・ホテルなどの空間・内装の企画・デザイン・設計・施工マンション・戸建住宅などのリフォームに関する企画・デザイン・設計・施工事業用建物のコンバージョン・リニューアルに関する企画・デザイン・設計・施工新築マンションにおける設計変更工事、モデルルーム・共用部の企画・デザイン・設計・施工
家具・インテリアの企画提案・商品販売など