チバソムは、Condé Nast Travellerの「Gold List」や「Readers’ Choice Awards」をはじめ、世界的メディアおよび専門アワードで繰り返し高評価を受けるウェルネスデスティネーションの象徴的存在である。伝統×エビデンス、ラグジュアリー×サステナビリティ等の二項対立を”統合”しつつ、最高のホスピタリティを融合させた独自のポジショニングで、世界中の富裕層から30年以上にわたり支持を集めている。チバソムの「ウェルネス」は、人間の再生は自然の再生とともにあるというメッセージとともに、人、自然、地域や地球の自然治癒力による自己再生をやさしく後押しする。本稿では、チバソムの本質的で圧倒的なウェルネスジャーニーの価値と魅力に迫る。
『Wellness Business』通巻3号(2026年5月25日発刊号)海外特集記事を転載
「チバ(Chiva)=生命」「ソム(Som)=安息地」

バンコクから南へ車で約3時間。タイ湾に面した静かな港町ホアヒンは、20世紀初頭にタイ王室の夏の離宮が建てられて以来、高級リゾート地として知られてきた。その海岸線に、1995年4月19日、のちに世界のウェルネス業界を根底から変えることになる1つのリゾートが静かに産声を上げた。チバソム・インターナショナル・ヘルスリゾート。タイ語で「命・生命」を意味する「チバ(Chiva)」と、「安息地・隠れ家」を意味する「ソム(Som)」。その2つの言葉が合わさった名が示すとおり、このリゾートはただ人を休ませるためではなく、人の命そのものを輝かせるために生まれた。
創業者ブンチュー・ロジャナスティン氏は、タイの元副首相を務め、バンコク銀行頭取としても知られる傑物。英国での生活が長く、すでにヨーロッパに根づいていたヘルスリゾートの文化に深く触れていた同氏は、自身の別荘で、友人や家族とウェルネスな週末を過ごし始める。やがて、多くの人にその体験を届けるべく、「世界に誇れるヘルスリゾート」を創ることを決意。タイには「ウェルネス」も「スパ」もない時代。周囲に心配されながらも、6.7エーカー(約2万7,000平方メートル)の敷地に、ホリスティックウェルネスとサステナブルラグジュアリーの新たな基準を作り出した。
「何よりも人生を楽しむ」という創業者のモットーは、2007年に現会長兼CEOのクリップ・ロジャナスティン氏が経営を引き継いでからも、温かなホスピタリティの精神とともに受け継がれている。
チバソムはコンデナスト・トラベラー誌の「世界No.1デスティネーション・スパ」を複数回受賞し、ワールド・スパ・アワードでは「タイNo.1ウェルネス・リトリート」「アジアNo.1ウェルネス・リトリート」の称号を幾度となく獲得してきた。
だが、チバソムの真の強さはアワードの数ではなく、リピーターの数にある。リピート率は約60〜70%に達し、リピートするごとに、家族や仲間と来たり、滞在日数も増えていく。主要顧客は欧州(特に英国・ドイツ)・オーストラリア・アジア富裕層だが、創業期からの集客モデルは「マスへの訴求」ではなく「選ばれた少数との深い関係」だ。チバソムが大切にしているのは、「次も還ってきたい」と思わせる体験を丁寧に届けることなのだ。
「ウェルネスの6つの柱」で包括的に設計される体験価値

チバソムを一般的なラグジュアリーリゾートと根本的に区別するのは、そのウェルネスプログラムの専門性の高さと、きめ細やかなパーソナライズにある。ゲストがストレスを感じることなく、自身のライフスタイルを変革し、帰宅後も継続できる健康的な習慣の土台を作ること。そのために構築されたのが、「ウェルネスの6つの柱」という独自のフレームワークである。
スパ、フィットネス、フィジオセラピー(理学療法)、ホリスティックヘルス、栄養、そして美容メディスパ。この6つの専門領域はそれぞれ独立したものではなく、互いに有機的に連携しながら、ゲスト一人ひとりの目標に向けて機能する。
ゲストのウェルネスジャーニーは、ヘルス&ウェルネスアドバイザーによる詳細なコンサルテーションから始まる。体重管理、ストレス軽減、体力増強、癌からの回復支援、慢性的な頭痛の改善、高血圧対策……ニーズや目的は人それぞれだ。そのコンサルテーションをもとに、現在16種類提供されているリトリートプログラムの中からゲストに最適な滞在が設計される。
標準的な滞在期間は1週間から10泊だが、1ヶ月以上のロングステイでゴール達成を目指すゲストも珍しくない。「最短でも3泊」という考え方の背景には、変革とはある一定の時間と没入を必要とするという、確固たる哲学がある。
この哲学的な深さを支えるのが、「ナチュロパシー(自然療法)」と呼ぶアプローチである。ナチュロパシーの核心は、症状に対処するのではなく、その根底にある原因にアプローチする。たとえば、慢性的な疲労感は1つの臓器や細胞の問題ではない。神経系が消化系に影響し、免疫系に連鎖し、最終的に複数の症状として現れる。
さらに根底に流れるのが「ヴァイタリズム(生命力論)」の思想だ。
人の身体には本来、自己を修復し、健康を取り戻す力が備わっている。チバソムの役割は、その自然治癒のメカニズムを外からコントロールするのではなく、ゲストの変容をやさしく後押しすること。
それゆえチバソムでは、ライフスタイル・食事・遺伝的背景・ストレスレベル・環境への暴露まで、その人の全体像を丁寧に問診して、ホリスティックセラピーやライフスタイルへの介入を通じて、本来の回復力が十分に発揮できる環境を整えることに全力を注ぐ。
チバソムが提供するのは、滞在中の体験だけではなく、その人が自身の健康の専門家になるための「知識と選択力、自己効力感」なのだ。
畑から食卓へ―オーガニック菜園で実現するウェルネス・キュイジーヌ

チバソムの食の原点は、敷地から数分の場所にある、2つのオーガニック菜園にある。
2020年6月に「アグリカルチャー・サーティフィケーション・タイランド(ACT-IFOAM)」の有機農業認証を取得した。化学合成肥料や農薬を一切使わず、リゾートから出る有機廃棄物を活用したコンポスト堆肥で土を育てる循環型農業で育てられた野菜やハーブは、土からのエネルギーを豊富に取り込んだ、豊かな香りと味を放つ。
調味料がなくても美味しいウェルネス・キュイジーヌの持続的な提供を可能にする。

総料理長シンチャイ・スリヴィパ氏が率いるキッチンチームは、この菜園直送の食材を中心に、タイ料理と西洋料理を融合した「ウェルネス・キュイジーヌ」を毎日3食提供する。メニューはビュッフェ形式とオーダー形式の両方で提供され、ゲストのアレルギーや栄養上のニーズ、健康目標に合わせて一人ひとりに最適化される。
特筆されるのは、それが「制限食」ではなく「美食」として提供される点だ。
チバソムでは料理教室も定期的に開催され、ゲストはウェルネスメニューの調理法を自ら学ぶことができる。帰宅後も台所で実践できるよう、すべての料理のレシピが、ゲストが持ち帰れる形で用意されている。チバソムでの「変容」や「再生」が滞在後にも続く理由の1つだ。
2,500年の叡智と、先端医科学の邂逅


チバソムが世界の他のウェルネスリゾートと一線を画す最も根源的な理由の1つは、その土地の文化と伝統医学に対する、揺るぎない敬意と深い理解にある。
創業当初から東洋の叡智と西洋のエビデンスに基づく実践を融合させてきたが、その「東洋の叡智」の中心に位置するのが、2,500年以上の歴史を持つタイ伝統医学(Traditional Thai Medicine:TTM)である。

タイ伝統医学は、アーユルヴェーダや中医学の影響を受けながらも、季節のリズム、環境の影響、自然由来の療法を重視する点において、明確にタイ独自の発展を遂げてきた治癒体系だ。その中心概念となるのが、地(Earth)・水(Water)・風(Wind)・火(Fire)の「四大元素(Dhatu)」である。これらの元素はそれぞれ、個々の体質・健康状態・感情のバランスに影響を与えており、4つが調和した状態のとき、人は自然な活力とウェルビーイングを得る。バランスが崩れたとき、人は疲弊し、炎症を起こし、感情が乱れる。身体的・精神的・感情的な健康は、物理的な現象であると同時に、自然界のリズムとの共鳴のうえに成り立っているというこの世界観は、現代の統合医療とも深く響き合う。
注目すべきは、このアプローチがタイにとどまらないという点だ。
チバソムがカタールのアルルワイスにオープンした「ズラル・ウェルネスリゾートbyチバソム」では、タイ伝統医学に代わり、7世紀から13世紀に偉大なペルシャの医師・哲学者イブン・シーナーによって大成されたアラブ・イスラム伝統医学(TAIM)が、現代のウェルネスとして初めて本格的に再解釈されて提供されている。
伝統医学が単なるトリートメントのメニュー名ではなく、その施設のアイデンティティそのものとして体験されるとき、人はその真の深さに触れることができるのだ。
一度訪れたら、また還りたくなる「見えない価値」

チバソムが30年間にわたって世界の富裕層から選ばれ続けてきた理由は、施設の豪華さでも、プログラムの多さでもない。その核心は、「人と人の関係性」にあると言える。
チェックインの際、ゲストは顔写真を撮影される。その写真は担当スタッフ全員とオンラインで共有され、滞在中、どこにいても、名前を伝えなくとも、自分にパーソナライズされたサービスが提供される。こうした経験が積み重なって、ゲストはチバソムを「リゾート」としてではなく、「還る場所」として認識するようになる。
チバソム30周年を記念してつくられた動画でスタッフが語った言葉がある。
「訪れるたびに『再会』のような感覚を生み出します。それはサービスだけで実現できるものではなく、責任感、人間関係、そしてチームワークによって生まれるものです」この感覚こそが、チバソムの究極の体験価値を生み出す強みの源泉となっている。
その根底を支えるのが、業界でも突出した「人への投資」である。
300名超のスタッフのうち、マッサージセラピストをはじめとする専門家は84名。すべてのセラピストはチバソム・インターナショナル・アカデミーで150時間以上の研修を受け、タイ政府と英国の基準による認証取得を経てはじめてゲストの前に立つ。フィットネストレーナーはスポーツ科学の4年制大学卒業が採用基準であり、ウェルネスアドバイザーにはメディカル系大学卒業が求められる。

スタッフの勤務年数が長いことも、高いサービス品質を証明している。コンデナスト・トラベラー誌は、医師・セラピスト・フィットネスチームの長期在籍(decades)を、チバソムの競争力の源泉として明記している。
そして何よりも注目すべきは、ゲスト1名に対してスタッフが5名という、5:1のスタッフ比率だ。客室数54室に対して、70室のトリートメントルームがあり、提供される施術・プログラムは200種類以上。チバソムが標榜するパーソナライズされたウェルネス体験を物理的に支えるサービス設計ができるのは、長期の人材投資と採用哲学の結果だと言える。コロナ禍においてもスタッフを解雇せず、国境閉鎖期間中は国内市場や在住外国人にシフトしながら組織を維持した。この判断もまた、「人を資産として守る」という経営の一貫性を示している。
チバソムのESGが生み出すサステナブルな競争優位

「ゲストの心と体のウェルネスは、そこで働く人、地域、環境のウェルネスなくしてはありえない」。これはチバソムの企業理念の一節だが、創業以来30年、この言葉は具体的な数値と運営の仕組みに落とし込まれてきた。2024年に取得したサステナビリティに関するTravelifeGold認証は、その積み重ねに対する国際的な第三者評価の1つにすぎない。
電力使用量は前年比2%削減。水使用量は38%減。廃棄物に至っては、2022年の実績で73%を埋立から回避し、2024年には総廃棄物7万3120kgのうち68%をリサイクル・再利用した。
電力使用量の削減により、不安定な国際情勢により電気料金が約40%上昇する環境下でも、エネルギーコストを約1万5千ドル削減している事実は、ESGが収益性をも支え、経済的な強さにも繋がっている証左だ。

もう1つ、チバソムのESGで最も象徴的なプロジェクトが、ホアヒンに残る最後のマングローブ生態系「クライラー・ニウェー」の保全と再生である。2007年以降、ホアヒン市と国立シルパコーン大学と連携しながら、この森を守り続けてきた。現在の保全エリアは約12ライ(約1.9ヘクタール)に拡張され、1キロメートルの高架木道(建設費支援700万バーツ)が整備された。植林した本数は2024年までに1万1500本以上。
この森は現在、ホアヒン市民に無料で毎日開放され、地域の「緑の肺」として機能している。年1回開催される国際的なマラソン大会のスタート・ゴール地点としても、人々のウェルネスへのメッセージを発信。その保全活動は民間企業の枠を超えた、地域エコシステムの再生として評価されている。
チバソムの会長兼CEO・クリップ・ロジャナスティン氏は語る。
「バランスとイノベーションは、私たちのアプローチにとって重要な要素です」。この言葉が象徴するのは、30年にわたる継続投資の姿勢である。ゲストの期待に応え続けるため、創業25周年を経て段階的に実施された大規模リノベーションの総投資額は約8億バーツ(約24億円)。4フェーズ、5年にわたったこの改装は、施設の美観を更新するためだけではなく、ウェルネス市場の進化に対応するための戦略的投資と、地域や地球環境保全につながるサステナビリティ経営実現への投資だったのだ。
「咲き始めた花のように、最高の時はこれからやってくる」

30周年記念動画の最後に残されたこの言葉は、過去の実績への自賛ではなく、未来への宣言だ。チバソムは今、創業以来最も大きな戦略的転換に踏み出している。その中心にあるのが、「ファミリーウェルネス」という新しいビジョンだ。
カタールのアルルワイスに開業した「ズラル・ウェルネスリゾートbyチバソム」は、単なる海外展開ではなく、チバソムが蓄積してきたウェルネスの知見を「マネジメント契約」という形で輸出した初の試みだ。チバソムのビジネスモデルが「施設運営」から「知見の提供」へと進化したことを示すこの契約は2021年に締結され、現在では中東最大かつ初の完全没入型ウェルネスリゾートとして稼働している。
ズラルでは、チバソムでは利用できなかった16歳以下のゲストも受け入れ、「ファミリーウェルネス」にも注力している。そこには「強い家族の絆が社会の根幹であり、子どもたちの成長期にウェルネスの知識を育むことが、生涯にわたる健康の土台を作る」という信念がある。ウェルネスを個人の課題ではなく、家族・世代・社会の課題として捉えるこの視点は、チバソムがウェルネスの概念を再定義しようとしていることを示している。

チバソムが30年間積み上げてきたものを俯瞰すると、そこには1つの問いへの一貫した答えがある。「ウェルネスとは何か」という問いだ。
チバソムにとって「ウェルネス」は、病気がないことでも、スパで一日リラックスすることでもない。心・身体・魂のバランスを生涯にわたって追い求めること。伝統の叡智と現代科学の双方を統合した根本原因へのアプローチ。自分の健康を自分で守れる知識と自己効力感の獲得。
そして何よりも、そこにいるだけで自然に自身の再生と、地域、地球の再生とが同期する感覚。だからこそ人生を楽しむことができて、命がよろこぶ。チバソムの「ウェルネス」には、そんなメッセージが込められている。
DATA

・名称:チバソムホアヒンChiva-Som Hua Hin
・所在地:タイ・ホアヒン(バンコクより南185km)
・開業:1995年4月19日
・敷地面積:6.7エーカー(約27,000m²)
・客室数:54室(スイート・パビリオン等)
・宿泊料金:1泊1室約200,000円~(オールインクルーシブ)
・オリジナル設計(1995年開業時)ジャン=ポール・ブリセット(英国)
タイの伝統的建築様式(アユタヤの伝統家屋)にインスピレーションを受けた設計。サステナビリティとエレガンスを体現するタイ式建築として、タイの伝統と西洋の現代的革新をバランスよく融合させた。
・大規模リノベーション設計監修(創業25周年)
エド・タトル(米国)
アメリカで高い評価を受ける建築家。ヘルス&ウェルネスセンター、ベイジング・パビリオン、ニランラダ・メディスパ、「テイスト・オブ・サイアム」レストラン、「エメラルド・ルーム」レストランおよび全客室のリノベーションを手がけた。総投資額約8億バーツ(約24億円)、4フェーズ・5年にわたる大規模改装。