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星野リゾートは、「星野リゾート」というマスターブランド名で全体を統一してきたこれまでの戦略から、顧客ニーズや施設の特性に応じて作られた、「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO」「BEB」などのサブブランドの認知度をより高め強化し、サブブランドごとの顧客体験を明確に打ち出していく戦略へと舵を切っている。これら各サブブランドの特徴や魅力は、これからの連載で、しっかり触れていきたいと思うが、いずれのサブブランドでも、「滞在を通じて心身を調える」という「養生」を1つの魅力として大切にしている。この「養生」は、健康に気を付けて身体を大切にする健康維持を超えて、星野リゾートでは、滞在する地域の文化や歴史、地域産物、自然と接し体験することで心身を整えるウェルネスプログラムになっている。このウェルネスプログラムがどのように形成されているのかを探る連載の初回となる今号では、星野リゾートのウェルネスプログラムの考え方、また「星のや軽井沢」での、独自の養生プログラム「森林養生」を紹介していく。

『Wellness Business』創刊記念号(2025年7月25日発行)連載「星野リゾートのサブブランド戦略とウェルネスプログラム研究」記事を転載

星野リゾートのウェルネスプログラム進化の道程

 星野リゾートのウェルネスプログラムを、20年来に築き上げてきたのが、星野リゾートSpa&Wellnessマネージャーの渡邉径子氏である。渡邉氏は、かつてスイスで経験した滞在型ウェルネスプログラムに感銘、消えつつある日本の湯治文化を活かして、現代のウェルネスプログラムを日本で作りたいと、星野リゾートに 2004年12月に入社した。「リゾナーレ八ヶ岳」に配属され、同施設内のスパトリートメント施設で運営経験を積んだのち、「星のや軽井沢」へ異動する。軽井沢にはスパ施術専用のスパ棟があり、温泉はメディテイションバスと先進的なアイテムが整っていた。
 「温泉に入る、スパトリートメントを受ける、というだけでなく、滞在を通じて心身を調える『養生』を提供し、『健幸』になってもらうための組み合わせアイテムがあり、国内滞在型ウェルネスの先駆けが星のや軽井沢と思った」。この優位性を存分に活かしたことが、後述する「森林養生」へと進展していく。

「谷の集落に滞在する」が魅力の「星のや軽井沢」

 「養生」「健幸」を根底にもつ「ウェルネスプログラム」は、軽井沢の森や自然を活かし、様々な形で星野リゾートの滞在の魅力として構築が始まる。朝の体操ができないか、ウォーキングや森林浴、ストレッチや呼吸法などあらゆる養生の形があるが、「星野リゾートは、あくまでリゾートとしての快適さを保ちながら、地域特性と融合した『養生』を提供することが基本」。
 よって画一的なものとはせず、星のやブランドでも、軽井沢は森林浴、沖縄は琉球文化を継承した養生、バリ島ではバリヒンドゥの滝行や舞踊などの異文化体験など、テーマをもっての体験型ウェルネスであることが特徴だ。
 温泉旅館ブランド「界」では、「現代湯治体操」という朝の体操プログラムが定着している。これは、温泉入浴と組み合わせて、滞在中に血流改善や心身のリフレッシュを促すことを目的とし、ユニークで地域性のある創作体験で、呼吸、ストレッチに加え、土地の自然や文化にちなんだ「ご当地」の動きを取り入れた体操を渡邉氏が現場のスタッフと話し合いながら考案している。また界では、“美しく、心地よい現代の湯治”の在り方を提案する「うるはし現代湯治」がある。「うるはし現代湯治」れは温泉療法専門医の早坂信哉教授の監修により作ったもので、湯治文化を現代のライフスタイルに合わせて再構築し温泉への入浴方法が示されている。いずれの界でも大浴場付近にうるはし現代湯治の掲示されており、日本の湯治文化を星野リゾート流に継承していく使命も感じられるところだ。
 逆に文化体験を、ウェルネスプログラムに進化させることもあるという。「星のや京都」では、季節ごとの1泊2日の滞在企画に、和歌をテーマにした滞在体験「奥嵐山の歌詠み」が提供されている。和歌の名門・ 冷泉家の当主夫妻から、冷泉流歌道の手ほどきを受けられる機会に自らの歌を詠み、翌日には、京都御所北にある冷泉家住宅(現存する唯一の公家屋敷)の特別見学もセットされている。渡邉氏は「歌詠みのように、想像力を豊にしていく体験は、まさに心のトレーニング。心身のリフレッシュとウェルネスプログラムの定義からぶれていない」。
 地域の文化、歴史や自然を体験に落とし込み滞在中の魅力に組み入れることで、「旅の記憶」に刻まれ、顧客満足度を高めリピートにもつながる。星野リゾートがウェルネスプログラムを重要視するのはこの点が大きい。

「星のや軽井沢」のウェルネスプログラム「森林養生」

 「星のや軽井沢」で展開されているウェルネスプログラム「森林養生」について、また星のや軽井沢の近況についても、星のや軽井沢 総支配人 赤羽亮祐氏に話を訊いた。
 先に星のや軽井沢の近況である。現在(2025年4月期)の月平均稼働率は89.2%、客室平均単価は95,613円、インバウンド比率は38.2%(星野リゾート・リート投資法人資料より)、日本人客の割合が高く、都市生活者の短期の休息地として安定した集客を維持している。
 赤羽氏はこの数年を振り返り「コロナ禍で一時的に停滞した観光業界の中で、星野リゾートは『マイクロツーリズム』という概念を打ち出した。軽井沢星野エリアは東京から2~3時間というアクセスの良さと、豊かな自然環境が魅力を支え回復が早かった。コロナ期に、星のや軽井沢の滞在は、三密を避ける行動としても注目された。もう一つ回復の背景には、コロナを経て意識が深まったSDGsの観点からも、水力発電や温泉排湯熱、地中熱を活用し、消費エネルギーの内、約7割(68% 2017年時点)を自然エネルギーにより生産する、持続可能な運営スタイルが顧客の共感も得た」と言う。
 星のや軽井沢の滞在の魅力としてアクティビティは多く用意されているが、コロナ期の声を出せない時期には、隣接する森の中で、ヤッホーなど声を出したり、森林のなかで気兼ねなくストレッチをしたりするアクティビティが考案された。「日常が多忙で自ら休息の時間を確保しにくい人。経済的には余裕を持ち、新しい体験や発見を通じてリラックスしたいというニーズがある。非日常的な体験に価値を見出し、心身のバランスを調える場としてウェルネスな体験ができる星のや軽井沢が選ばれているのではないか」と赤羽氏は分析する。
 その体験の1つが「森林養生」だ。
 森林養生は、温泉と森林浴を中心に開業間もないころから導入された。2021年から公益財団法人 身体教育医学研究所(長野県東御市)に、主に運動面において監修を依頼、森林浴や深呼吸入浴法、指圧などを通じて心身の健やかさを取り戻すことを目的とした。何度かリニューアルを繰り返し、2025年7月1日から新しい「森林養生」となり、鍼灸・ボディケアや薬膳仕立ての食、心拍センサーを活用した運動効果の可視化など、科学的なアプローチが加わった3泊4日のプログラムへと進化している。
 4日間で提供されるのは、森林浴ウォーキング(心拍センサー付きで運動効果を可視化)、鍼灸・ボディケア(国家資格者による体質別施術)、深呼吸入浴法(メディテイションバスでのストレッチ)、薬膳仕立ての食事(スポーツ栄養学に基づくメニュー)だ。公益財団法人身体教育医学研究所が引き続き監修し、新たにスポーツ栄養学に基づく食の監修としてニッスイ湯の丸アスリート食堂が参画した。高い運動効果が得られる、ノルディックウォーキング用のポールを使い、自身の内面に意識を向けるマインドフルネスな森林浴も体験できる、その強度は3つのコースから選択できる。ウォーキングにはスタッフが帯同し、案内をしていく。

「森林養生」のプログラムの1つ、森林浴を楽しむウォーキング
国家資格を持つ施術師がコンサルテーションを行い、身体の気づきを提供
「光の部屋」と「闇の部屋」を持つ宿泊者専用の温泉「メディテーションバス」
スポーツ栄養と薬膳仕立ての食も魅力の1つ

 また森林養生の特徴として、東洋医学のアプローチから、国家資格を持つ鍼灸・柔道整復師が鍼灸施術を行うとともに、顧客が記入する「体質判定問診シート」をもとに、身体のコンサルテーションを行っていく。問診や触診で利用者自身の体調や日常習慣の課題を示し、利用者が「気づきの場」となることを重視している。

鍼灸施術を導入

 「健やかで幸せな状態」を、感動を伴う体験を通じて心身の充足を「旅先で調える」ことをさらに展開していくが、「星のやのブランドは2年前に、『その瞬間の特等席へ』とコンセプトワードを再設定しました。独自性ある滞在の魅力を、その土地の文化、土地に眠っている価値観も感じられるように引出していき、お客さまに特別感を出して提供することを大事にしていくブランドでありたいです」と赤羽氏。
 サブブランドによりコンセプトが異なるなかで取り組むウェルネスプログラム。その創造や提供の在り方を、これからじっくりと探っていきたい。

DATA

期間:通年
対象:18歳以上
含まれる内容:
・コンサルテーション2回
・深呼吸入浴法レクチャー1回
・森林浴ウォーキング4回
・鍼灸・ボディケア3回
・浅間山ストレッチ1回
・のびのび深呼吸1回
・夕食「日本料理 嘉助・山の懐石」2回
・朝食「日本料理 嘉助・山の朝食」1回
・特別夕食「山の旬菜鍋御膳」1回
・特別朝食「山の旬菜粥朝食」1回
・インルームダイニング和朝食1回
料金:270,000円/1名様(税・サービス料10%込)*宿泊料別
定員:1組2名
【監修機関】
●公益財団法人身体教育医学研究所
●ニッスイ湯の丸アスリート食堂