『Wellness Business』通巻3号(2026年5月25日発行)掲載記事を転載
公益社団法人日本サウナ・スパ協会 副会長を務め、横浜駅東口より徒歩5分の温浴施設「スカイスパYOKOHAMA」を運営する国際企業株式会社 代表取締役の金憲碩氏。1968年に前身の「横浜国際ヘルスクラブ」として創業した家業を受け継ぎ、国際サウナ協会(ISA)理事として世界のサウナ文化と日本の架け橋を担う。空前のサウナブームの先にある本質的な変化と、ウェルネスビジネスとしての温浴業界の未来の可能性について聞いた。
「終電難民」から「ととのい」を求める若者へ
「スカイスパYOKOHAMA」は、1968年に父が「横浜国際ヘルスクラブ」として創業しました。当時は会員制で、ドクターが常駐し、体操教室もある健康特化型の施設でしたが、時代が早すぎて会員制では続かず、一般向けの「スカイサウナ」として再出発しました。その後、ビルの建て替えを機に、現在の「スカイスパYOKOHAMA」として新たにオープンしています。
70年代、80年代の高度成長期は、「24 時間働けますか」の時代ですから、終電を逃したビジネスマンが1,800円で泊まる場所、前の日のお酒を抜く場所──そんな使われ方が多く、ウェルネスとは真反対の世界ですよね。ところが今、スカイスパの利用者の6割近くが20代・30代です。サウナブーム以前は40代・50代が中心でしたから、顧客層が一変しました。若い方々はサウナに対するイメージがとても良く、サウナハットやパーカーなどのグッズを購入してはSNSで発信する。JALさんの「サ旅」のように各地のサウナを巡る旅も生まれています。かつての「我慢の場」から、サウナはライフスタイルの一部へと変わったのです。

100人が集うサウナ室から生まれる、新しい体験
サウナそのものも大きく進化しました。父の時代は、室温は100 ~ 110℃が当たり前で、暑さを我慢してからビールを飲む、それが定番でした。30年ほど前に、ヨーロッパのサウナを何カ所か視察して気づいたのが、向こうは80~90℃で水をかけ、蒸気を楽しむスタイルだということです。テレビもない静かなサウナ室にしたところ、当時は「テレビがないなんて」「80度ではサウナとは言えない」とお叱りも受けました。でも、幸い景色に恵まれた環境で、一人で静かに汗をかきながら考え事をする時間が持てる。今はそれが若い世代にもぴったり合っています。
2021年には約70坪・100人以上が入れる「サウナシアター」をオープンしました。きっかけは2019年にオランダで初めてアウフグース世界大会を見たことです。皆が笑顔で健康的に汗をかき、その後に食事をしながら交流を深めていく姿に感動して、これを日本でもやりたいと思いました。日本サウナ・スパ協会の理事仲間の協力を得て、音響・照明を備えた大型サウナ室を整備し、2022年から「アウフグース・チャンピオンシップ・ジャパン(ACJ)」を開催しています。2023年には日本チームが世界大会で優勝を果たしました。今年2026年も新しく東北が加わり全国6カ所で地方予選を行い、6月にスカイスパで日本選手権を開催。勝ち抜いたチームがベルリンでの世界大会に挑みます。
サウナが育む、人と人のつながり
今はサウナに入って水風呂に浸かるだけではなく、サウナ室でのメディテーションやヨガ、多彩な植物を使ったリチュアル、シンギングボールを用いた五感に響くプログラムなど、多様な体験を提供しています。男女が館内着を着て一緒に参加できるので、カップルや女性同士で来られる方も増えました。以前はクリスマスイブは、スカイスパが横浜のど真ん中にあるのにガラガラでしたが、今はカップルや女性グループのお客様もいらっしゃる。ライフスタイルの変化を肌で感じますね。
法人の「サウナ部」として利用される企業も多いんです。午後にスカイスパの会議室でミーティングをした後、サウナに入り、また食事をしながら交流を深める。普通の会議室より、はるかにリラックスした雰囲気で社内のつながりが生まれます。コワーキングスペースとしてWi-Fiや充電環境も整えていますし、サウナでととのってからまた仕事に戻る方も少なくありません。サウナには健康だけでなく、人と人をつなぐソーシャルな力がある。よくサウナ業界は皆さん仲がいいと言われますが、やっぱりととのっている人が多いからでしょうね(笑)。
ブーム継続のカギは、安全管理と人材育成
サウナの体験価値を高めるうえで、ハードだけでは解決できない部分があります。人が関わってこそ、他では得られない価値が生まれる。そして、それはすぐには真似できない強みにもなります。アウフグースの大会も華やかなタオルさばきが注目されがちですが、実は厳密な採点基準があり、サウナ室が熱すぎれば減点、衛生管理ができていなければ減点です。お客様への気配りや安全管理ができてこそ、「サウナマスター」と呼ばれる存在になれるのです。日本サウナ・スパ協会では2025年にサウナマスターアカデミーを設立し、アウフグースマスター養成講座をスタートしました。また協会のテキストでは、ロウリュに使うアロマもナチュラルな素材を推奨しています。知識とスキルが必要ですが、一度天然のエッセンシャルオイルの香りを体験すると、もう戻れなくなりますよ。
安全面も極めて重要です。近年起きた事故を受けて、当協会にも多数の取材がありました。異業種からの参入が増えるなか、レジオネラ菌対策をはじめ、安心・安全・清潔という基本の徹底が不可欠です。協会では安全管理ガイドブックの発行や勉強会、オーナー研修などを通じて、業界全体の底上げに取り組んでいます。こうした基盤があってこそ、ブームは文化として長く定着するのだと考えています。
身近で、続けられる──それがサウナの力
日本は食文化と同じで、サウナについても非常に柔軟な国です。フィンランド式、ドイツ式、さまざまなスタイルを取り入れて、最終的には様々な要素をブレンドしてクオリティの高いものを作ってしまう。昔は110℃一択だったのが、今は70℃もあれば80℃もある。ミストサウナも岩盤浴もアウトドアサウナもテントサウナもある。自分に一番合ったものを選べるというのが、理想的なライフスタイルだと思うんです。
ウェルネスの観点では、海外の五つ星ホテルに良いスパがあることは今や必須条件です。日本でも外資系ホテルを中心にその流れは加速しています。一方で、日本の強みは1,000円台から利用できるスーパー銭湯が身近にあること。首都圏であれば、おそらく自宅から5キロ圏内に温浴施設があるでしょう。金銭的にもロケーション的にも「継続」できることが、サウナの最大の魅力です。よく眠れるようになり、食事も美味しくなり、人とのコミュニケーションも豊かになる。サウナは特別な贅沢ではなく、日常のなかで誰もが取り入れられる、身近なウェルネスなのです。
若い世代がこの文化を育ててくれるよう、我々も進化し続けなければなりません。国際サウナ協会を通じた世界各国との交流で新しいトレンドを取り入れながら、安心・安全の基盤を守り、温浴業界のウェルネスとしての可能性をさらに広げていきたいと思っています。(談)
Interview

金 憲碩(キム・ケンセキ)氏
公益社団法人日本サウナ・スパ協会 副会長
国際企業株式会社 代表取締役
国際サウナ協会(ISA)理事。1968年創業の「横浜国際ヘルスクラブ」を前身とする温浴事業の家業を継ぎ、横浜駅直結の温浴施設「スカイスパYOKOHAMA」を運営。2021年に約70坪・100人収容の大型サウナ室「サウナシアター」を開設し、2022年より「アウフグース・チャンピオンシップ・ジャパン(ACJ)」の会場に認定される。サウナマスターアカデミーの設立にも携わり、国内外のサウナ文化の発展と人材育成に尽力している。