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『Wellness Business』通巻3号(2026年5月25日発行)掲載記事を転載

温浴専門コンサルティング歴30年、日本の温浴マーケットを最も長く、最も深く見つめてきた人物の一人が、株式会社アクトパス 代表取締役社長の望月義尚氏である。船井総合研究所時代に温浴チームを創設し、ロウリュの全国普及に奔走。2006年の独立後も、繁盛店開発から事業再生まで、全国の温浴施設を伴走し続けてきた。2025年末に発生した赤坂のサウナ事故を受け、業界が歴史的な転換点を迎えつつある今、望月氏に日本の温浴マーケットの来し方と行く末を聞いた。

銭湯と温泉の国に、レジャーの波が押し寄せた

日本の温浴文化は、日常的に利用する「銭湯」と、旅行や湯治で訪れる「温泉」という2つの柱で長く支えられてきました。その風景が大きく変わったのが1950年代です。船橋ヘルスセンターという施設が、お風呂に宴会やボウリング場、大衆演劇といった、あらゆるエンターテインメントを詰め込んで登場しました。年間450万人を集めたというから驚きです。現在、日本で最も集客する温浴施設が「スパリゾートハワイアンズ」の年間150万人ですから、桁違いのスケールです。

「お風呂とレジャーを組み合わせると、こんなにも人々が喜ぶのか」――そこに目をつけて、全国各地にヘルスセンターが広がっていきました。これが温浴マーケットの風向きが変わった最初の転機ですね。さらに東京オリンピックを機にサウナ文化が入ってきて、繁華街に男性専用の都市型サウナが急増した。その後に登場したのが、ヘルスセンターの縮小版ともいえる「健康ランド」です。お風呂に宴会場、大衆演劇の舞台、ゲームコーナーと、ファミリーが週末に遊びに行くような場所でした。

健康ランドが隆盛を極めた後、そのディスカウント業態として出てきたのが「スーパー銭湯」です。ここでカギとなったのが「連通管」や「ジェットバス」という技術革新でした。複数の種類があるように見える浴槽を1つの濾過循環システムで管理できるようになり、建設コストがガクンと下がった。健康ランド並みの立派な大浴場に、500円程度で入れる。銭湯のゴージャス版であり、健康ランドのディスカウント版。マーケット的に非常にいいポジションを取ったのがスーパー銭湯だったのです。

同時期に、竹下登内閣(1987年11月~1989年6月)の「ふるさと創生資金」として、温泉掘削の補助金として各1億円が出され、多くの自治体が温泉を掘削しました。出たからには施設を作ろうということで、人口の少ない地方にも温泉施設が次々と建てられた。こうして1950年代から2000年代初頭まで、温浴マーケットは半世紀以上にわたって拡大し続けたのです。

昔ながらの良質な源泉は不動の人気(新左衛門の湯・山形市蔵王温泉)

事故と不信が招いた長期低迷、そしてサウナブームによる再起動

ところが2000年代に入り、急成長の反動のようにネガティブな事件が相次ぎます。2002年に宮崎でレジオネラ菌の集団感染事故が発生し7名が亡くなりました。渋谷では温泉のガス爆発事故で3名が犠牲に。さらに数年で全国2,000店舗に急増した岩盤浴が不衛生だという報道が続き、温泉偽装事件も発覚した。こうしたネガティブな事件の連鎖に、人口減少やリーマンショックも重なって、2006年をピークに温浴マーケットは長期的な縮小に転じました。

それが底を打って、もしかしたら再成長に入るのではと感じ始めたのが2019年頃です。要因はサウナブームですね。統計上はっきり成長に転じたのは2022年頃からで、以降、増加傾向が続いています。

サウナブームの背景には、消費者側と供給者側、両方の事情があります。消費者側では、「サウナはかっこよくて、おしゃれで、健康的なもの」という新しいイメージが浸透しました。2014年に小学館から『サウナー』という雑誌が出たり、2017年にはサウナ愛好家の情報交換サイト「サウナイキタイ」が開設されたり。サウナ専門ブランド「TTNE」が、デザイン性の高いサウナを次々と作り始めたのも大きかった。ヨーロッパには以前から日本よりはるかにクオリティの高いサウナがあったのですが、それが輸入される形で日本にも快適で美しいサウナが広がっていきました。

一方、供給者側にとっては、サウナは小規模・低コストで開業できるという圧倒的な利点があります。スーパー銭湯は今や坪単価300万円、500坪で15億円もかかる。しかも建設費が3倍になっても売上は3倍にはならない。その点、サウナは防水工事も簡単で、貯湯槽やボイラー、ポンプ、濾過器も要らない。坪200万円以下で作れるのです。サウナ専門店では50坪以下という小規模施設も増えています。消費者がサウナに注目し、事業者も「もうこれしかない」と飛びつく――この両者の思惑が一致しているからこそ、サウナブームはタピオカのように2、3年で消えるものではなく、20年スパンの大きな波になると考えています。

技術革新がブームを支えてきた――ロウリュ普及の舞台裏

温浴マーケットの歴史を振り返ると、各時代のブームの裏には必ず技術革新がありました。健康ランドの濾過循環技術、スーパー銭湯の連通管や券売機、岩盤浴の電熱線技術。そして今回のサウナブームを後押しした技術がロウリュ?サウナストーンに水をかけて蒸気を発生させる?を可能にするストーブの普及です。

実は日本の従来のサウナストーブは水をかけることを想定していませんでした。ヨーロッパでは当たり前だったロウリュが、日本ではできなかった。そこで私が開発したのが「熱岩石」という運搬式の蒸気発生装置です。ガスコンロで鍋に入れた石を焼き、サウナ室に持ち込んで水をかける。これを全国の施設に普及させたところ、お客さんも喜ぶし面白いと好評でした。ただ、毎回ガスコンロで石を焼いて重い鍋を運ぶのは大変ですし、危険でもある。それならやはり水かけ専用のストーブを入れよう、という流れになっていったのです。

ロウリュによって何が変わったかというと、「暑くて苦しいサウナ」が「楽しくて面白いサウナ」に変わった。タオルで熱波を送るイベントに夢中になっているうちに、気がつけば10分、15分とサウナ室にいて、体の芯まで温まっている。すると水風呂が気持ちよく入れるんですね。しっかり温まってしっかり冷やす。この温冷交代浴のサイクルを体験して初めて、サウナの本質的な気持ちよさがわかる。そこで目覚めて、習慣化していく人が増えたのです。

「天然温泉」の神話崩壊と、温泉の純化という処方箋

温泉についても触れておきたいと思います。かつて温泉は山奥まで出かけて入る神秘的なものでしたが、大深度掘削の技術進歩で市街地でも「天然温泉」が次々と掘られるようになった。ところがその多くは、成分が薄かったり、塩素消毒して濾過循環しているだけのものだった。消費者もそれに気づき始め、天然温泉という看板のありがたみが急速に失われました。1,000メートル掘れば1億円かかりますが、徐々にその投資に見合わなくなったのです。20年前は「天然温泉がないと集客は難しい」とアドバイスしていた私が、今は「1億円かける価値はない」と180度違うことを言っています。それほど世の中の目が変わりました。

ただし、本当に温泉の価値そのものがなくなったわけではありません。地下から適温のお湯が湧出すれば燃料代も水道代もかからない。経営的に非常に有利です。また、本当に美肌効果や療養効果のある泉質を持つ温泉は、いまも変わらず支持されています。消費者の目が肥えた今だからこそ、看板に騙されなくなった一方で、いい温泉はちゃんとわかるようになった。

私が提唱しているのは「温泉の純化」というアプローチです。湯量に限りがあるのに、大きな浴槽や多くの浴槽をすべて天然温泉とうたうのではなく、源泉かけ流しの浴槽を1つに絞る。できれば加温も塩素消毒もしないで済むならそうしたいところです。残りの浴槽は水道水や井水を沸かして入浴剤を入れてもいいし、サウナに転換してもいい。純粋にいい状態の温泉を提供すれば、それぞれの源泉の個性が際立つし、わかってくれるお客様は必ずいます。神秘的な温泉の神話にもう頼らず、クオリティと効果効能を科学的に追求し、最適な状態で提供する。その姿勢が消費者の不信感を払拭し、温泉ブームの再来につながる道と考えています。

世界一の温浴大国が秘める、ウェルネスの可能性

いま世界に目を向けると、日本だけでなく、フィンランドやアメリカ、イギリスでもほぼ同時期にサウナブームが起きています。ニューヨークでは「バスハウス」と呼ばれる、日本のスーパー銭湯に近い業態が大きな注目を集めている。世界的なウェルネスブームの中で、温浴文化への関心がグローバルに高まっているのです。

実は日本は、人口あたりの温浴・サウナ施設数で世界一の「温浴大国」です。家庭用サウナの多いフィンランドを除けば、商業施設としてのサウナの数も世界最多。しかもオペレーションの質が非常に高い。ニューヨークのバスハウスを実際に訪れた方の話を聞くと、日本のスーパー銭湯の方が設備もサービスも圧倒的に上だと言います。この強みと観光を組み合わせれば、大きな経済的ムーブメントを生み出せるはずです。

課題もあります。訪日外国人の約4割が温泉に入りたいと答えているにもかかわらず、多くの施設がタトゥーや入浴マナーを理由に受け入れを拒んでいる。10年先にはさすがにこの状況は変わっているだろうと思いますが、業界全体をまとめるリーダーシップが不足しているのが実情です。温浴施設は全国約2万件ありますが、それを網羅する業界団体がない。小規模事業者の集合体という構造的な問題があり、一斉に変わることが難しいのです。

それでも、サウナブームに加えて温泉も本質的な価値を取り戻し、さらにウェルネスという文脈でマッサージや鍼灸、スパといった人的サービスとも連携できれば、日本の温浴マーケットにはまだまだ大きな可能性があります。温浴とサウナとスパ――この3つをウェルネスとして一体的に捉え直すことで、日本ならではの新しい価値が生まれるはずです。温浴業界がその道を切り拓いていくことが期待されています。(談)

Interview

望月義尚氏

株式会社アクトパス 代表取締役社長

船井総合研究所に新卒入社し、温浴チームを創設。温浴専門コンサルティング歴30年。ニュージャパンサウナなんば店での経験を機にロウリュの全国普及に尽力し、運搬式ロウリュ装置「熱岩石」を開発。2001年に温浴業界初の展示会を仕掛け、現在もサウナ・スパEXPOをサポートする。2006年に株式会社アクトパスを設立、2021年には物販部門を浴場市場株式会社として分社化。全国で多数の繁盛店開発や事業再生の実績がある。熱波師・クラシックアウフギーサーとしての顔も持ち、2019年にはドイツサウナ協会の認定アウフギーサー資格を取得。自ら延べ1万人以上に熱波を送った経験を持つ。

望月義尚氏

株式会社アクトパス / 代表取締役社長