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宮城県蔵王山麓、遠刈田温泉。蔵王国定公園内の深い森に包まれるように「竹泉荘 CHIKUSENSO ONSEN」は佇む。2007年に経営破綻した老舗旅館を、香港の投資グループが約50億円を投じて再生。2010年、グローバル水準のラグジュアリーリゾートとして生まれ変わった。開業から16年。国内外の富裕層を惹きつけてきたこの宿が今、新たなフェーズへと踏み出そうとしている。温泉、自然、食、そしてスパ――すべてを統合した「長期滞在型ウェルネスリトリート」への進化だ。

『Wellness Business』通巻3号(2026年5月25日発刊号)第2特集「日本のラグジュアリーウェルネス」記事を転載

外資が見出した日本の温泉の価値

竹泉荘の再生を主導したのは、香港ミンリー・コーポレーションの故ペイソン・チャ会長だ。バンコクのスコータイホテルなどグローバルなラグジュアリー資産を持つ同グループが、なぜ東北の温泉旅館に投資したのか。スパコンサルタントとしてリニューアルに携わった相馬順子氏は「ペイソンさんは子どもの頃に家族と訪れたこの旅館に深い思い入れがあった。

経営破綻を知り、日本人の手で再建してほしいと私に託された」と振り返る。チャ会長は自身も膵臓がんと闘いながら、90度の源泉が湧くこの地にウェルネスの理想を重ねた。

リニューアルでは、ペニンシュラ東京を手がけた故・橋本夕紀夫氏による「モダン第2特集「日本のラグジュアリーウェルネス最前線」ジャパニーズ」のインテリアデザインを採用。栗の無垢材の床、伊達家の家紋を刻んだ450kgの梵鐘をロビーに据えるなど、日本文化の厚みを現代のデザイン言語で再編集した。日本初上陸のスパブランド「Spa Botanica」の導入も、温泉旅館の付帯サービスだったスパを「滞在体験の中核」へと転換する狙いがあった。相馬氏はこの構造を「日本の温泉文化を核に、グローバルウェルネスとして再構築したハイブリッドモデル」と位置づける。

「つかず離れず」が生む、「帰りたくない」ラグジュアリー

開業から一貫するサービスコンセプトは「つかず離れず」。COOの菊地政義氏は「必要な時に、期待以上のサービスをすること。

普段はほっといていいよ、というお客様の空気を読む」と語る。食後に薬を飲む仕草を見せたゲストにさりげなく白湯を差し出す。そんな「見るともなしに見ている」接客が、2017年には口コミサイト「一休」東日本エリアで第1位の評価につながった。

菊地氏自身、長年シティホテルに勤め、定年後に竹泉荘を訪れた際「自分のホテル人生の集大成はここだ」と確信し、自ら入社を願い出たという。チェックアウト時に「How you’re your stay?」と声をかけると、1泊のゲストでさえ「Excellent」と答え、名残惜しそうに去っていく。昨年宿泊したオーストリア人カップルからは、この宿での挙式を希望するメールが届いた。「時間が静かに、ゆっくり過ぎる。そんな贅沢を感じているから帰りたくないのかもしれない」と菊地氏は微笑む。

長期滞在型リトリートへの進化

現在のオーナーであるルシア・チャ代表取締役社長のもと、竹泉荘は「高品質な滞在型リトリート」へと舵を切りつつある。

菊地氏は、そのビジョンをこう説明する。

「1泊で温泉に入るだけではなく、3泊4泊していただく中で、温泉、スパ、食事、地域の文化資産に触れ、心と体の深い再生をもたらす旅を提供したい」具体的な取り組みは多岐にわたる。スパでは、中国伝統医学の専門家の指導のもと漢方を取り入れたオリジナルトリートメントのプログラム開発が進む。温泉についても、ただ浸かるだけでなく、湯中にくつろぎのベッドを設置するなど新しい過ごし方を模索する。日本文化の温泉を、グローバルウェルネスの体験として進化させる試みだ。

ウェルネス志向のメニューを加え、飽きのこない食体験を提供

食の面では、増加するインバウンド富裕層のニーズに応え、竹泉荘オリジナルのヴィーガン・ベジタリアンメニューを開発中だ。地元農家との連携、近隣のワイナリーや酒蔵とのパートナーシップによるペアリング提案も準備が進む。京懐石をベースにした「山と水の饗宴」に加え、ウェルネス志向の食が加わることで、長期滞在でも飽きのこない食体験の幅が広がる。

アクティビティでも、済州島発祥の認定トレッキングコース「宮城オルレ蔵王・遠刈田温泉コース」や修験道を歩くコースなど、蔵王の自然と歴史を体感するプログラムが整いつつある。こけし絵付け体験や松島観光など、滞在日数に応じた周遊プランもすでに用意されている。菊地氏はこう語る。

「竹泉荘でしかできないウェルネスをいくつ用意できるか。それが問われています。

心身ともに健康で健全になってお帰りいただく――それが我々の使命です。地方の特色を生かしながら、癒しを届けることが、これからの温泉旅館に求められるマストの要件だと考えています」敷地内の源泉、蔵王の原生林、修験道の歴史、モダンジャパニーズの空間美。日本の温泉旅館が持つ資源を、世界基準のウェルネスとして再編集する竹泉荘の挑戦は、全国の温泉地にとっても1つの道標となるはずだ。

Interview

菊地 政義 氏

Osbert Hotels 竹泉荘COO

シティホテルで長年キャリアを積んだ後、竹泉荘の空間とホスピタリティに惚れ込み自ら入社を志願。
一時離職を経て2023年に復帰し、ウェルネスリトリートへの転換を現場で推進する。

DATA

  • 名称:竹泉荘 CHIKUSENSO ONSEN
  • 運営:Osbert Hotels株式会社(香港ミンリー・コーポレーショングループ)
  • 立地: 蔵王国定公園内
  • 設計: 橋本夕紀夫デザイン事務所(「モダンジャパニーズ」コンセプト)
  • 温泉: 遠刈田温泉 自家源泉かけ流し
  • スパ: Spa Botanica(日本初上陸ブランドとして導入)
  • レストラン: 日本料理 竈神(かまじん)
  • 客室: スイート・和洋室ほか30室(蔵王国定公園内に立地) 
  • 料金:1泊55,000円~ 260,000円(1泊2食1室2名で利用時おひとり様料金)