京都・二条城至近。250年以上にわたり三井総領家の邸宅があったこの地に、2020年、HOTEL THE MITSUI KYOTOは誕生した。「日本の美しさと-EMBRACING JAPAN’ S BEAUTY-」をブランドコンセプトに掲げ、フォーブス・トラベルガイドではホテル両部門で5年連続5つ星を獲得 、SPA部門でも2026年に5つ星を獲得。ミシュランガイドでも最高評価の3ミシュランキーに選出される。敷地の地下1,000mから湧き上がる天然温泉を核に、古来の湯治を現代に翻訳した「温泉養生ジャーニー」で注目を集める同ホテルの、ラグジュアリーウェルネスの価値の源泉を探った。
『Wellness Business』通巻3号(2026年5月25日発刊号)第2特集記事を転載
三井総領家250年の記憶が宿る場所
HOTEL THE MITSUI KYOTOの価値は、この「場所」そのものから始まる。三井総領家が250年以上にわたり邸宅を構えた土地の歴史と文脈が、ホテルの空間に深く織り込まれている。建物を囲うように配された中庭は、二十四節気をイメージして設計され、常にどこかで花が咲き、季節の移ろいを感じさせる。春には八重紅枝垂桜がシンボルツリーとして中庭を彩り、秋には紅葉が庭を真っ赤に染める。すべてのレストランエリアからこの庭が望めるように設計されており、滞在のあらゆる瞬間に、京都の四季が寄り添う。
客室には天然素材と日本の工藝技術がふんだんに用いられ、160室それぞれが「日本の美しさ」を体現する。ゲストがホテルに第2特集「日本のラグジュアリーウェルネス最前線」足を踏み入れた瞬間から中庭が視界に入る設計は、都市の喧騒から一歩で切り離される結界のような装置として機能している。
「静謐を湛える」──京都の地下水脈に着想を得たSPA

同ホテルのウェルネスの中核は、敷地の地下1,000mから湧き上がる天然温泉「サーマルスプリング」にある。一般的な日本の温泉とは異なり、水着や湯浴み着を着用し、男女一緒に利用できるスタイルを採用した。
裸での入浴に抵抗のある海外ゲストにも、天然温泉の恵みを届けたいという思いからだ。宿泊ゲストの約8割を海外からの旅行者が占める同ホテルならではの設計である。
SPAエリア、「サーマルスプリングSPA」のコンセプトは「静謐を湛える」。BGMは一切流さない。天然石をふんだんに配した空間は、洞窟の中にいるような静けさに満ちている。そのデザインの着想源は「京都の地下水脈」だ。京都は水によって発展した都市である。茶の湯、和食の出汁、酒造り──すべては水から生まれた文化だ。その水の記憶を空間に宿し、聞こえてくるのは水が流れる音だけ。「静けさの中で何かを感じていただきたい」と語る水越智子副総支配人の言葉には、刺激を加えるのではなく、刺激を削ぎ落とすことでこそ得られる癒しへの確信がある。
古来の湯治を現代に翻訳する「温泉養生ジャーニー」

2026年4月にリニューアルした宿泊型ウェルネスプログラム「SPA Indulgence温泉養生ジャーニー」は、「快眠」をテーマに、古来の湯治を現代に再解釈した2泊3日のリトリートだ。人間の体の約70%を占める「水」に着目し、サーマルスプリングの天然温泉の力で体内の水の巡りを整え、究極の睡眠へと導くことを目指す。
滞在の始まりは、専属のスパコンシェルジュによるカウンセリングから。心身の状態を丁寧に聞き取り、2泊3日の過ごし方をパーソナライズする。その冒頭で行われるのが、シンギングボウルを用いた呼吸のリチュアルだ。ゲスト自身が1分間の呼吸を計測し、音の波動とともに深い呼吸へと導かれる。施術の前後で呼吸の変化を体感することで、「頭の中が忙しく活動している」日常から、自分の身体感覚を取り戻す。
チーフセラピストの星安代氏は「水の力によって、ご自身の体の感覚を取り戻していただきたい」と語る。
滞在中は養生ジャーニーでのみ体験できるトリートメントとシグネチャートリートメントの両方が楽しめる。シグネチャートリートメントには、アロマ調香デザイナーとして知られる斎藤智子氏が日本各地を旅して厳選した素材から調合したオリジナルアロマを使用。ゆず、クロモジ、ヒノキを用いた「リラックス」、月桃とラベンダーの「エナジャイズ」、柑橘系の「リフレッシュ」の3種類から、ゲスト自身が香りを選ぶ。
ハーブボールを用いた施術とあわせ、既存のスパプロダクトに頼らない完全オリジナルのメニューとして提供される。
100㎡を超えるプライベート温泉では、よもぎを用いたハーバルスチームや、酒粕・薄荷のスクラブで全身を整える。さらに、慶応元年(1865年)創業の京都の老舗「かづら清老舗」の椿油を用いた特別なフェイシャルトリートメントも用意。京都の文化と歴史が、施術の1つひとつに息づいている。

夕食はプライベート温泉のリビングエリアで提供される「メンテナンスディナー」。
京丹後の塩麹や大徳寺納豆など、発酵の力を取り入れた料理が、就寝前の身体に負担をかけず、内側から滋養で満たしていく。
温泉、トリートメント、食、アクティビティ──すべてが「快眠」という1つのゴールに向かって設計された、水をめぐるジャーニーである。
「リラックスラグジュアリー」という哲学

同ホテルが目指すラグジュアリーは、「リラックスラグジュアリー」だと水越氏は語る。「お客様がリラックスできてこそ、心も体も満たされること。それは食べ物かもしれないし、トリートメントかもしれないし、私たちスタッフのサービスかもしれない」。その言葉の通り、シモンズ製のホテルオリジナルベッド、肌触りにこだわったホテルオリジナルのパジャマ、リラックスを促すルームスプレーまで、睡眠の質へのこだわりが滞在の隅々に行き渡る。
セラピストは全員が直営の社員として在籍し、ラグジュアリーホテルのスパ体験研修を経て技術を磨く。「人の三井」と呼ばれる三井不動産の社風のもと、人を大切にすることがサービスの質に直結するという信念が、組織全体に浸透している。海外のゲストから「今まで受けたトリートメントの中で一番良かった」という声が絶えないのは、その蓄積の証であろう。
2026年度中には「HOTEL THE MITSUI HAKONE」の開業も控える。三井家の歴史と、京都の水と文化を源泉にしたウェルネスの哲学が、日本のラグジュアリーウェルネスの新たな潮流を生み出そうとしている。
日本型ウェルネスビジネスの可能性は、日本人の我々がその価値を見直し、実感するところから始まることを気づかせてくれる。
Interview

水越 智子氏
HOTEL THE MITSUI KYOTO
副総支配人 兼 宿泊部長

星 安代氏
HOTEL THE MITSUI KYOTO
チーフセラピスト
DATA
- 名称:HOTEL THE MITSUI KYOTO
- (ホテル ザ ミツイ キョウト)
- 所在地:京都府京都市中京区油小路通二条下る
- 二条油小路町284
- 開業:2020年11月
- 立地:元離宮二条城至近、三井総領家邸宅跡地
- 設計:清水建設株式会社
- 運営:三井不動産リゾートマネジメント株式会社
- 客室数:160室
- 料金:1泊1 室 177,100 円~ (サービス料込)
- 温泉:京都二条温泉
- (敷地内地下約1,000mより湧出する天然温泉)
- SPA:サーマルスプリング、SPAトリートメント 4室、
- プライベート温泉 2室(100㎡超)、フィットネスジム
- レストラン:都季(TOKI / イノベーティブ)、
- FORNI(フォルニ / イタリアン)、
- THE GARDEN BAR(バー&ラウンジ)
- 受賞:フォーブス・トラベルガイド ホテル部門 5つ星
- (5年連続)、スパ部門 5つ星(2026年)、
- ミシュランガイド 3ミシュランキー(2年連続)、
- The World’s 50 Best Hotels( 2025)
- URL:https://www.hotelthemitsui.com/