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日本屈指のラグジュアリーリゾートとして知られる赤倉観光ホテル。昭和12 年(1937年)12 月12 日、国際基準の山岳リゾートホテルの草分けとして開業して以来、約90年にわたりその品格と格調で顧客を惹きつける。年間を通じてほぼリピート顧客で予約が埋まる老舗ホテルの支配人、後藤幸泰氏に、日本のラグジュアリーウェルネスの価値の源泉を聞いた。

『Wellness Business』通巻3号(2026年5月25日発刊号)第2特集記事を転載

歴史と自然に浸れるクラシックラグジュアリー

赤倉観光ホテルは、日本政府の外貨獲得政策の一環として、大倉財閥の二代目・大倉喜七郎氏がプロデュースした国際リゾートホテルである。帝国ホテルの社長を務めた経験を持つ大倉氏は、英国留学で学んだ国際リゾートの概念と、スイスの山岳リゾートをモデルに全体設計を構想。創業当時の設計は帝国ホテルを手がけた高橋貞太郎氏が担い、デザインには繁岡ケンイチ氏、ゴルフ場には井上誠一氏を起用するなど、あらゆる分野に当時の日本屈指の人物第2 特集「日本のラグジュアリーウェルネス最前線」の知見が活かされた。「やるなら一番いいものを」という創業者の哲学は、約半世紀後の今も同ホテルの随所に息づいている。

1965 年に火災により主要施設が消失するも、翌年には創業時の意匠を継承して再建。以来、長い歴史と伝統を守りながら、現代の快適性を感じられるようにリノベーションを重ねてきた。後藤支配人は語る。

「古いものをそのままにしておくと『オールド』になってしまう。でも、手入れをしていれば『クラシック』になる」その言葉の通り、館内には創業当時のアンティーク家具や調度品が丁寧に修復・維持され、「古いのに心地よい」という独自の価値を生み出している。

天然温泉と大自然がもたらすウェルネスの真髄

「SPA&SUITE棟」では、全客室にある露天風呂からも大自然が望める

同ホテルのウェルネス価値を語る上で、温泉の存在は欠かせない。日本百名山の1つ、妙高山の中腹・標高1,000m に位置する同ホテルは、泉源から1.9km という近さにある。源泉で約50℃の温泉は、山中を縫ってホテルに届く頃には42 ~ 45℃のちょうどよい湯加減になる。正真正銘の源泉かけ流し。「硫酸塩泉」と「炭酸水素塩泉」の2つの成分をあわせ持つ泉質は、肌を包み込むようなやわらかさで、天然の美肌の湯とも言われる。温泉の湧出量は非常に豊富で、30 口もの温泉権を有し、何度入っても湯あたりしにくいやさしい泉質が、滞在中の繰り返しの入浴を可能にしている。

2009 年に新設された「SPA &SUITE棟」は、ホテルでありながら大浴場を備え、全客室に露天風呂を設けた。テラスには山の水を利用したインフィニティな水盤が広がり、柵の代わりに水を配すことで、標高1,000mの大自然を遮るものなくダイレクトに望める設計が施された。運がよければ雲海を望むこともできる。この水盤は温泉の排熱を利用して水温を保ち、冬も凍らない。自然のエネルギーだけで完結する循環は、まさにこのホテルのウェルネス哲学の源にもなっている。

何もしないことが、ラグジュアリー

「何もしないっていうのが贅沢だとよく言われるんですよ」と後藤支配人は穏やかに語る。都会から訪れるゲストの多くは、特別なアトラクションを求めるのではなく、日常では得られない「何もしない時間」を求めてやって来る。部屋から山の稜線を流れる雲を眺め、何度も温泉に浸かり、普段はできない昼寝をする。そんな過ごし方が、このホテルのウェルネスの真髄だ。

「お客様から『携帯電話さえなければ一番いいんだけどね』と笑いながら言われることもあります」そう話す後藤支配人の言葉には、時間に追われる日常から解放されたいという、現代のウェルネス需要の本質が浮かび上がる。

実際、露天風呂付き客室のゲストは、部屋からほとんど出てこないことも多いという。

同ホテルのおもてなしは、都会的なスマートなサービスとは一線を画す。「お帰りなさい」と迎え、「また来たよ」と返す。そんな「つかず離れず」の距離感が、ゲストに心地よさを感じさせる。リピーターの中には、自身が生まれる前から80 年以上通う家族もいる。お客様がスタッフを育て、スタッフがお客様に育てられる。その循環が、人によるウェルネスを生み出している。

EARTH SPA──大地の母の温もりを身体で感じる

壮大な妙高高原の自然=Mother Earth(母なる大地)をコンセプトにしたEARTH SPA

2009 年の増築とともに導入されたスパ「アーススパ(EARTH SPA)」は、4 年連続でワールドラグジュアリースパアワードを受賞し、世界的にも高く評価されている。運営を担うザ・デイ・スパは、「Body・Mind・Spirit をホリスティックに満たす」ことを理念に掲げ、妙高の自然を深く理解した上で、この場所ならではのスパコンセプトを丁寧に作り上げた。

開業当初から大切にされてきたキーワードが「Mother Touch」だ。壮大な妙高高原の自然= Mother Earth(母なる大地)に抱かれたこの場所で、母の温もりのような安心感と静けさの中で心身を満たしたいという想いが込められている。シグネチャーメニューの「氣・セラピー」では、地元で摘んだよもぎやラベンダーなどの野草を使った温湿布を背中に当て、ハーブのエネルギーを感じながら体を温める。フットバスには妙高の日本酒の酒粕を使用。五行説の概念を取り入れた深呼吸のおもてなしなど、大地の恵みを五感で感じる時間が組み立てられている。

ホテルのハーブガーデンで育てたハーブは、スパのトリートメントだけでなく、バーのカクテルやレストランの料理にも使われる。アメニティにも妙高の自然を感じるオリジナルの香りをブレンドし、滞在のあらゆる場面で、この土地の空気感を五感で感じられるよう設計されている。

自然界の五行説、木・火・土・金・水からの「氣・エネルギー」で整う儀式

脈々と受け継がれる、日本のラグジュアリーウェルネスの価値

妙高には近くシックスセンシズの進出が控える。そうした外資ラグジュアリーブランドの台頭について、後藤支配人は「私どもはもうここで88 年営業を続けてきている。そのプライドはしっかり守っていきたい」と静かに、しかし力強く語る。インバウンドに振り切るのではなく、長年通ってくれる顧客を大切にし続けるという姿勢が、このホテルのラグジュアリーを支えている。

歴史ある建築と、四季折々に表情を変える妙高の大自然。源泉かけ流しの天然温泉と、大地の恵みを五感で感じるスパ。そして、「お帰りなさい」と迎えてくれる、心地のいいおもてなし。そのすべてが、約90年の時を越えて受け継がれ、一体となって価値を生み出している。それは、新しく作ろうと思って作れるものではない。赤倉観光ホテルが体現するのは、日本の温泉地に脈々と息づく、自然と人との調和の上に成り立つ、プライスレスなラグジュアリーウェルネスの姿そのものである。

Interview

後藤 幸泰氏

赤倉観光リゾート&スパ統括支配人
R&M リゾート株式会社

DATA

  • 名称:赤倉観光リゾート&スパ
  • 所在地:新潟県妙高市田切216
  • 開業:昭和12年(1937 年)12月12日
  • 運営:R&Mリゾート株式会社
  • 立地:妙高山中腹・標高1,000m(妙高戸隠連山国立公園内)
  • 設計:株式会社石井建築事務所(本館は、大成建設)
  • 客室:約69 室
  • 料金:1泊39,500円~
  • 温泉:赤倉温泉(硫酸塩泉・炭酸水素塩泉)、源泉かけ流し
  • スパ:EARTH SPA(アーススパ) 運営:ザ・デイ・スパ
  • レストラン:メインダイニングルーム(フレンチ)、
  • アクアダイニング(洋食創作料理)、白樺(和食)
  • 付帯施設:赤倉観光リゾートスキー場、赤倉ゴルフコース、
  • 妙高高原スカイケーブル(観光ゴンドラ)
  • URL:https://www.akr-hotel.com/