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世界の不動産市場で、「ウェルネス」が新たな資産価値の指標として注目を集めている。安藤忠雄氏のもとで建築の原点を学び、米国でフィットネス施設設計の最前線に立ってきた佐々木康昌氏。建築を“人の健康を生むプラットフォーム” として再定義し、「ウェルネス」を軸にした開発・投資モデルの確立に挑んでいる。本連載では、「人の健康を生む建築」がどのように経済的資産へと転換されていくのか、その思想と実践を探っていく。
今回はWell認証にかかわる大きな開発例としてこの春グランドオープンを迎えた「高輪ゲートウェイシティ」について検証する。

WELL時代の都市設計

全体概要マップ、品川と田町をつなぐ

ほぼ真新な9.5ha大きな敷地にJR東日本が手掛ける国内最大級の開発プロジェクト。延床面積は85万㎡以上になり、規模的には六本木ヒルズ72万㎡よりも大きく、麻布台ヒルズと同等かそれ以上の面積です。開発イメージとしては麻布台ヒルズが「1つの巨大複合施設」、に対してこちらは「駅を核とした都市拡張」的であることが大きな違いでしょうか。

Well認証に関しては、「WELL Core&Shell」を取得すると報じられており、「環境、ウェルネス配慮型開発」として、ウェルビーイングな街をつくる際、Well認証が項目として有効性あるものと認識されている証だと思います。

弊社はキーテナントの総合フィットネスクラブ、ジェクサー高輪の設計、デザインをしており、ウェルビーイングな街づくりに少しは貢献出来たのでは、と思っております。

● 高輪ゲートウェイシティ

高輪ゲートウェイ駅前、デッキ広場

コンセプトは「100年先の心豊かなくらしのための実験場」を掲げ、最新テクノロジーと都市生活を融合させた新たな街づくりを目指している、としています。

特徴は、ウェルビーイングを「特定の施設」ではなく、「都市全体の仕組み」として実装しようとしている点にあります。これは、同じくウェルビーイングを掲げる麻布台ヒルズが、ランドスケープや緑地、ラグジュアリーな滞在体験を軸に「質の高い非日常」を提供しているのに対し、高輪ゲートウェイシティはより日常に近いスケールで、行動そのものを変えていく、歩行、回遊、行動変容を促す設計であるともいえます。その特徴は大きく3つに整理できます。

高輪ゲートウェイシティ全景、低層棟をつなぎ回遊できる

1つ目は「回遊性」。

WELLにおける「Movement」が、都市スケールで実現している点です。品川駅や田町駅とのつながり、回遊性も大きな要素です。街区全体は細長で、駅や各街区を、デッキと地上を組み合わせた立体的な歩行者ネットワークが構築され、歩くことが楽しくなる配慮があちこちにされ「無意識の運動誘発」がされる計画となっています。具体的には、低層階は商業施設や店舗を分散配置。飲食や物販を混在させたり、集約させたり、複数のパターンを設定することで空間や場所性に多様性を持たせ、飽きさせない計画となっています。

2つ目は、滞在空間の分散配置による「余白」、「53 Playable Park」として多様な広場やストリートが整備されています。

総面積は4ha、南北1kmにわたって駅や広場、施設内の遊び場、緑地やカフェなどともつながり、通過するだけでなく立ち止まる設えがされています。そしてこれらの空間は、回遊動線と一体的に設計されていることがキーポイント。歩く、立ち止まる、また歩くという体験が連続することで、街区全体が1つの大きな広場、居心地の良い街として機能しています。この構造は、心理的なリラックスや偶発的な交流を生み出し、WELL の「Mind」や「Community」に相当する価値を都市レベルで実装していると言えます。

ミュージアムなどのMonTakanawa

3 つ目は、実証実験を前提とした「継続的な最適化」。

ロボティクスやモビリティ、エネルギー制御などの分野において、街全体でデータを取得しながら運用を最適化する仕組みが導入されています。データ、モビリティ、スマートシティの実証実験的な場所なのです。

例えば、駅を出たデッキでは移動に自動運転のモビリティ、などのサービスもあります。更に人流データによる混雑の分散や、環境センサーによる空気質・温熱環境の調整などが挙げられます。都市は完成形として固定されるのではなく、運用を通じて進化し続ける存在。ウェルビーイングもまた、設計時に完結するものではなく、使われながら更新されていく「プロセス」として捉えられているわけです。

高輪ゲートウェイシティは「WELL認証を取得する街」というより、「WELL的思考を前提に設計された都市」と言うべきかもしれません。認証という結果よりも、空間・行動・運用を一体で設計している点に本質的な価値があるのです。

自然のサイクルビオトープの広場

● ジェクサー高輪

ここで、弊社が設計を担当したジェクサー高輪にも触れてみましょう。従来、フィットネスクラブは健康づくりのために「行く場所」としての位置づけ、しかしこの街においては、日常的な運動への誘因が街の中に組み込まれているのでもう少し広義にとらえています。

それはフィットネスクラブが、「街での自然な運動をさらに高める場」としての位置付け、すなわち、「街での運動を、施設で高め、整える」という関係性。そのため機能的には多様な機能と空間、それはジム、スタジオ、スイミングプール、ゴルフなどのアクティビティに加えサウナや温浴施設などのコンディショニング機能も備えています。この位置づけは、これからのフィットネス、ウェルネス施設のあり方に対しても示唆を与えていると思います。

まとめ

高輪ゲートウェイシティは、都市そのものをウェルビーイングの装置として再構築しようとする試みでもあります。効率や利便性だけでなく、人の行動や感情に働きかける設計。今後の都市開発においては、「どれだけ効率的に動けるか」ではなく、「どれだけ心地よく滞在できるか」、さらには「どれだけ健康的な行動を自然に誘発できるか」が問われます。その意味において、高輪ゲートウェイシティは、WELL時代の都市設計の方向性を示す重要なケーススタディと言えるものでしょう。

今後の展開予定、順不同

1.健康が資産になる時代
2.設計段階でのウェルネス思考
3.ホテル・スパにおける体験価値のプレミアム化
4.オフィス・コワーキングにおける生産性投資としてのWELL
5.デベロッパーと投資家の視点から見たWELL資産評価
6.テクノロジーとウェルネス

WELL認証はウェルビーイングな世界を達成する一つのツール、世界的には他にも認証制度がありますので、それらも含めて、紹介してまいります。今後の連載が皆さまのウェルネスビジネスの一助になれば幸いです。

Interview

佐々木康昌(ささき・こうしょう)氏

株式会社オーエルシージャパン代表取締役CEO

株式会社オーエルシージャパン代表取締役CEO/1級建築士/CASBEE建築評価員。安藤忠雄に3年間師事し建築家のパッションを学ぶ。そののち渡米、デンバーでスポーツ施設の設計トップOLC(オールソン・ラヴォワ・コーポレーション)にて10年間アメリカのフィットネス設計に従事し、ノウハウを吸収。2000年に日本法人(株)オーエルシージャパンを立ち上げ、フィットネスクラブの設計を主軸として、日本のホスピタリティとウェルネスの分野に貢献してきた。高齢化先進国日本にメディカルフィットネスの浸透を目指している。ストレングスファインダー®による上位資質(本人の同意による公開)は、達成欲×着想。