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世界の不動産市場で、「ウェルネス」が新たな資産価値の指標として注目を集めている。安藤忠雄氏のもとで建築の原点を学び、米国でフィットネス施設設計の最前線に立ってきた佐々木康昌氏。建築を“人の健康を生むプラットフォーム” として再定義し、「ウェルネス」を軸にした開発・投資モデルの確立に挑んでいる。本連載では、「人の健康を生む建築」がどのように経済的資産へと転換されていくのか、その思想と実践を探っていく。第2回は、健康、ウェルネスの不動産価値、投資評価への影響について考察する。

前回は、日本が本来持つ「和魂」と、西洋の技術や制度としての「洋才」、その接点としてのWELL認証について触れました。今回は視点をさらに一歩進め、「健康、ウェルネスがどのように資産となり、不動産価値や投資評価を変えていくのか」について考えてみたいと思います。

これまで不動産の価値は、立地、交通利便性、規模、築年数、設備仕様といった「物理的条件」によって評価されてきました。これは高度経済成長期から長く続いた、合理的な評価軸でもあります。

しかし世界の不動産市場では明確な変化が起きています。それは、「この建物、環境下で人はどれだけ健康でいられるのか」という問いが、投資判断の基準に乗り始めたということです。背景には、下記のような構造的な社会変化があります。

  • 人材不足の深刻化
  • 医療費・社会保障費の増大
  • ESG 投資・人的資本経営の普及

企業にとって「人」は最大の資産であり、その人の健康状態が生産性・創造性・定着率を左右する時代になりました。結果として「人の健康を支える空間=価値の高い不動産」の認識が広がっています。

WELL認証の価値は、「健康に良さそう」という感覚的な評価を、測定可能で、比較可能な指標に落とし込んだことにあります。

空気、水、光、温熱、音、素材、運動、栄養、心、コミュニティ。

WELL認証はこれらを、「数値」「運用ルール」「継続的な検証」という形で定義し、健康を「管理可能な資産要素」へと変換しています。

これは、設計の世界にとってだけでなく、不動産の世界にとっても画期的な出来事だと考えています。

健康は「コスト」から「リターン」へ、

麻布台ヒルズ広場全景、建物、緑が一体的に計画

従来、健康配慮は「コスト」として扱われがちでした。空調性能を上げる、自然光を取り入れる、緑を配置する。

これらはすべて初期投資がかかるため、真っ先に削られる対象でもありました。

しかし現在、欧米のオフィス・ホテル・商業施設では、健康配慮によってリターンが生まれることが示されています。

  • 賃料プレミアム
  • 入居率の向上
  • 滞在時間の増加
  • 離職率の低下
  • ブランド評価の向上

注目すべきは、「健康性」がテナント企業の人材戦略と直結している点。優秀な人材ほど、「どこで働くか」「どんな環境で過ごすか」をシビアに見ています。

健康的で快適な空間は、給与や立地と同等、あるいはそれ以上の選択要因になりつつあります。

フィットネス・ホテル・オフィスは同じ資産構造を持つ

麻布台ヒルズマーケット、高天井、有機的なデザイン

私は、フィットネス施設、ホテル、オフィス、住宅といった異なる用途の設計を手掛けてきましたが、近年、それらが同じ資産構造を持ち始めていると感じています。

○ フィットネス: 「続けられる環境」= LTV(顧客生涯価値)の最大化

○ ホテル:「滞在したい環境」= ADR(客室単価)・収益力・ブランド力

○ オフィス: 「働き続けたい環境」=定着率・採用力・企業価値

用途は違っても、共通しているのは、機能を含めた快適性と感情が価値の源泉になっているという点です。

WELL認証は、この共通構造を一つの指標で扱えるため、用途横断的な「ウェルネス不動産」という新しいカテゴリーが成立してきている状況なのです。興味深いのは、WELL認証が評価する多くの要素が、日本文化の中に元々は存在していることです。

  • 四季を感じる光と風
  • 内と外を緩やかにつなぐ縁側
  • 静けさや余白を尊ぶ間
  • 自然と共にある生活リズム

これらは、数値化される前から実践されてきた「和魂」とも言えますが、同時に近年日本が、特に都市部で利便性と引き換えに失ってきたものでもあります。例えば、建築基準法では自然の採光はオフィスでは無くても成立しますし、屋内のグリーンについては項目すら有りませんが、WELL認証では大きな加点項目になっています。WELL認証を軸に、和魂を再評価し、日本の食文化のように世界へ向けたウェルネス不動産市場を日本から発信したい。そして日本への投資を大きくしていきたいものです。

健康は資産である

健康は生産性、創造性を上げる原資。それを維持するためにウェルネス産業、アンチエイジングなどが大きな投資対象になってきています。

  • 人が集まり
  • 人が留まり
  • 人がまた戻ってくる

不動産としてこの循環を生み出す力そのものが、建物の競争力であり、資産価値になるということです。立地や規模、そして価格が同じでも、「ここにいたい」と思われる建物と、そうでない建物の差は、今後ますます広がっていくでしょう。

麻布台ヒルズ

「健康が資産になる時代」を象徴する例として、麻布台ヒルズは示唆に富んだプロジェクトです。WELL認証においては、オフィス及び商業区画の共用部を対象とした「WELL Core」において、「広場やデッキ歩行による運動の促進」や「健康的な食事の提供」、「室内への清浄な空気の提 供を目的とした高性能空調フィルター実装」などが評価され最高ランクとなるプラチナ認証を取得しています。

森ビルは、より健康的でレジリエンスの高い都市空間を創造するための新たなベンチマークにWELLを利用しています、と発信もしています。 

テーマは「Green&Wellness」この街を歩くと、単なる再開発や複合施設ではなく、心身の状態を前提に設計された「都市スケールのウェルビーイング空間」であることが直感的に理解できます。

麻布台ヒルズの最大の特徴は、「緑に囲まれた建築」ではなく、緑・光・風・動線を一体で設計した都市構造にあります。中心に配置された大きな緑地空間は、視覚的なランドマークであると同時に、コミュニティの場であり、街全体の呼吸を整える装置として機能しています。歩行者動線は立体的で、自然と歩きたくなる距離感とリズムを生み出しています。また低層階のデザインは有機的で緑もふんだんに配置、森のように多様で自然な印象を与えています。

これはWELL認証が重視する「運動」「心」「コミュニティ」といった要素を、制度として今後の展開予定、順不同 

  1. 健康が資産になる時代
  2. 設計段階でのウェルネス思考
  3. ホテル・スパにおける体験価値のプレミアム化
  4. オフィス・コワーキングにおける生産性投資としてのWELL
  5. デベロッパーと投資家の視点から見たWELL資産評価
  6. テクノロジーとウェルネス

WELL認証はウェルビーイングな世界を達成する1つのツール、世界的には他にも認証制度がありますので、それらも含めて、紹介してまいります。今後の連載が皆さまのウェルネスビジネスの一助になれば幸いです。

ではなく都市体験として実装している好例と言えるでしょう。

無理に運動させられているのではなく、気づけば歩き、滞在し、深呼吸をしている。その「無意識の行動変化」こそが、ウェルビーイング設計の本質です。

さらに注目すべきは、この快適性が経済価値と矛盾していない点です。

オフィス、住宅、ホテル、商業が複合する麻布台ヒルズでは、「ここで働きたい」「ここに住みたい」「ここに行きたい」という欲求が重なり合い、高いブランド力と持続的な集客力を生み出しています。

健康的な環境はコストではなく、賃料・稼働率・ブランド価値を底上げする資産要素として機能しているのです。

日本的な視点で見れば、麻布台ヒルズには「和魂」的な要素も色濃く感じられます。余白を大切にした空間構成、自然との距離感、静と動のバランス。これらは数値化される以前から、日本建築が培ってきた感覚です。それを現代都市のスケールで再構築した点に、このプロジェクトの本質があると感じています。

麻布台ヒルズが示しているのは、「人は環境の動物」、健康は個人の努力とは別に、空間と都市が支えるものになり得るという可能性です。そして、その健康性こそが、これからの不動産・都市開発における最も強い競争力=資産になっていくのです。

ウェルビーイングは、もはや付加価値ではありません。街そのものの価値を規定する「新

しい基準」として、確実に主役の座に立ち始めているのです。

今後の展開予定、順不同

1.健康が資産になる時代
2.設計段階でのウェルネス思考
3.ホテル・スパにおける体験価値のプレミアム化
4.オフィス・コワーキングにおける生産性投資としてのWELL
5.デベロッパーと投資家の視点から見たWELL資産評価
6.テクノロジーとウェルネス

WELL認証はウェルビーイングな世界を達成する一つのツール、世界的には他にも認証制度がありますので、それらも含めて、紹介してまいります。今後の連載が皆さまのウェルネスビジネスの一助になれば幸いです。

Interview

佐々木康昌(ささき・こうしょう)氏

株式会社オーエルシージャパン代表取締役CEO

株式会社オーエルシージャパン代表取締役CEO/1級建築士/CASBEE建築評価員。安藤忠雄に3年間師事し建築家のパッションを学ぶ。そののち渡米、デンバーでスポーツ施設の設計トップOLC(オールソン・ラヴォワ・コーポレーション)にて10年間アメリカのフィットネス設計に従事し、ノウハウを吸収。2000年に日本法人(株)オーエルシージャパンを立ち上げ、フィットネスクラブの設計を主軸として、日本のホスピタリティとウェルネスの分野に貢献してきた。高齢化先進国日本にメディカルフィットネスの浸透を目指している。ストレングスファインダー®による上位資質(本人の同意による公開)は、達成欲×着想。