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2024年、日本のコワーキングスペースとして初めてWELL認証プラチナランクに更新したpoint 0 marunouchi。その背景には、ウェルビーイングを“特別なもの”から“当たり前のインフラ”へと変えていこうとする明確なビジョンがある。データに基づく空間設計、企業間の共創、そして2030年国内におけるウェルビーイングの一般化を見据えた実証実験――。オフィスにおけるウェルビーイングとは。その最前線の取り組みを追った。

2030年にはウェルビーイングが「当たり前」になる

予約なしで使えるリフレッシュルーム

point0marunouchi(以下、point0)を運営する株式会社point0取締役の豊澄幸太郎氏と長谷川修氏が目指すのは、ウェルビーイングがインフラとなり、あえて注目されなくなる状態だという。

2020年12月、日本のコワーキングスペースとして初めてWELL認証ゴールドランクを取得したpoint0。ウェルビーイングに感度の高い企業が共創しながら、ハード・ソフト両面での環境の開発・運営を進め、2024年にはプラチナランクへと昇格した。

豊澄氏によれば、日本でもウェルビーイングの取り組みは、2030年が一つの転換期になるという。SDGsの次なる国際アジェンダとして「SWGs(Sustainable Well-being Goals)」を掲げる動きが産業界で広がっており、2030年がウェルビーイング一般化の節目になるとみられている。アーリーアダプターとして先行する企業の取り組みが、スタンダードになる。10年前は気にしていた無線LANのスピードも、今や当たり前のインフラとなっている。ウェルビーイングも、いずれそうなる。point0は、その世界観を見据えて実証や顧客に向けたウェルビーイングの価値訴求を重ねている。

かっこいいオフィス」と「ウェルビーイングなオフィス」の違い

標高約2,000 メートルでの高地トレーニングを想定した「低酸素ルーム」を完備

2019年7月、東京・丸の内にオープンしたpoint0は現在、14社の企業が参画する「働くを再定義する」をテーマに掲げたコワーキングスペースだ。

プロジェクトは、2018年、ダイキン工業による協創の検討からスタートした。その目的は、各企業が持つ設備データを一つのプラットフォームに集約し、新たな価値を創出することだった。例えば、ダイキンの空調データ、パナソニックの照明データなど、多様なデータを統合して活用しようという取り組みだ。オフィス環境のデータは、大型ビルには蓄積されているものの、テナント側の企業はそのデータを使うことが難しい。そこで、テナント側の企業がデータを持ち寄れば、そのビッグデータで価値あるオフィス環境が作れるはずだというのが、最初の発想となっている。

このデータプラットフォーム構想と並行して、コワーキングスペースの開設にあたり、着目したのがWELL認証だった。その取り組みの中で、「かっこいいオフィス」と「ウェルビーイングなオフィス」の違いが見えてきたという。

point0では、年1回「ウェルビーイングアンケート」を実施し、従業員満足度を定点観測している。そのデータを他企業と比較すると、明確な差が浮き彫りになる。

Web 会議や集中作業に対応する個室ブース。音環境にも配慮

「特に差が出るのは、バイオフィリックデザイン(自然要素)、音環境、そして雑談交流です」と豊澄氏。グラフには、WELL認証を意識して作られたオフィスと、デザインは美しいがウェルビーイングを考慮せずに構築したオフィスとの間に、歴然とした差が描かれている。雑談や交流、緑などの自然要素が、人の気持ちやエンゲージメントに大きな影響を与えることが、データからも明確に示されている。

長谷川氏によれば、かっこいいオフィスで集中環境を作ろうとすると、コミュニケーションが犠牲になってしまうことが多いという。写真映えはするものの、オフィスとしての機能性に欠け、中で働く人の満足度も低い。そんなオフィスが世の中には少なくない。

例えば会議室。視認性を高めるためにガラス張りにすると、音が反響しやすくなる。

Web会議中に声が入り込み、特に補聴器をつけている人にとっては、響く音環境が不快感を与え続ける。照明も同様だ。色温度が低く照度が低い照明は見た目には映え、コミュニケーションも取りやすいが、半日そこで仕事をするのは辛い。カフェのようなデザインでオフィスを作った結果、実際には居心地が悪くなってしまっているケースが意外に多いという。その改修需要も増えているという。

ハードとソフトの両輪で実現するWELL認証

WELL認証の10の評価項目を分類すると、建築や内装工事でできることなどのハード面と、人事総務のルール、施設の運営管理などのソフト面でできることが、まんべんなく分散している。

24 時間利用可能なシャワールーム

point0では、約250個のセンサーを設置し、温度、湿度、CO2、PM2.5、照度、騒音といった環境データを取得している。これらのデータと従業員満足度を組み合わせることで、本当に効いているのは何なのか、検証も検討している。

また、ゴールドランクからプラチナランクへの更新を目指す過程で、point0は人事制度の大幅な見直しを行ったという。

ベンチャー企業として、大企業なら当たり前にあるような法定外の特別休暇制度や福利厚生が整っていなかった。プラチナランクを目指す中で、圧倒的に不足していたのが人事・福利厚生制度だったという。

特に力を入れたのが、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)対策だ。

災害発生時の72時間対応を確立し、どんな状況でも事業を維持できる体制を構築した。多くの大企業がBCP対策に取り組む中、ベンチャーでの導入はまだ少ない。

こうしたソフト面の整備と、ハード面の環境品質。その両輪が揃って初めて、プラチナランクが取得できる。

働く・くつろぐ・学ぶ・遊ぶ――4つの体験で実現する「社会的つながり」

心身のリフレッシュを促す設備も充実

point0が提供するのは、単なる「働く場所」ではない。「働く・くつろぐ・学ぶ・遊ぶ」という4つの従業員体験を統合した空間だ。この考え方の背景には、WHOが定義するウェルビーイングの本質がある。「心身ともに健康」なだけでなく、「社会的にも満たされている状態」。

日本のウェルビーイングは、この「社会的つながり」の要素が抜け落ちて説明されることが多い。豊澄氏によれば、幸福度ランキングで日本が先進国最下位なのは、社会的つながりを感じづらいのが一因ではないかという。日本人は横のつながりより縦の関係性を重視する傾向があるため、本業以外で社会的コミュニティを形成するのが苦手なのだ。

point0では、人と人をつなぐイベントが年間を通して開催されている。3種類の企画ルートで、多彩な内容で開催されることが特徴だ。3種類の企画ルートとは、1つは、point0のメンバーが企画する勉強会や交流イベント。2つ目はpoint0に参画している企業が合同で企画するイベント。3つ目は各社が単独で主催するイベントだ。

たとえば、アサヒビールによる「オフィススマドリ」は、ノンアルコールや低アルコールのドリンクを使い、チームでモクテル(ノンアルカクテル)を作って競うワークショップ。飲める人も飲めない人も参加でき、遊びながら学べる。このプログラムはWELL認証のイノベーション項目での認証申請中だという。

また、丹青社による「アート制作ワークショップ」では、企業の若手メンバーがキーワードを出し合い、アーティストがそれをアート作品に仕上げる。借り物の月額制アートではなく、「自分たちで作った」愛着のあるアートがオフィスを彩る。

オフィスを彩るアート作品

極めつけは「ギャルマインドから学ぶイノベーション人材育成」。CGOドットコムによるワークショップで、ギャルの発想がイノベーションを起こす際の思考法に近いという観点から、意識改革を行う。「ホントにマジ、なんとかなるじゃん」というプラス思考を、真剣に学ぶのだ。

「こうしたイベントが積み重なって、ネットワークの基盤ができる。その上に初めて、本当の交流や協働が生まれるんです。

point0では、参画している企業が『ウェルビーイングのソリューションって何なんだろう』と、それぞれの得意領域で発想し、新規事業に繋げているのも面白いところです」(豊澄氏)

このように、point0の最大の特長は、異なる企業の人々が日常的にコミュニケーションできる環境だ。自社のオフィスだと、どうしても社内の人間関係に限定されるが、point0では異なる会社の人同士が、社内のように日常的に交流する。そして、お互いを良く知り、仲良くなることがネットワークの基盤になる。その基盤をつくるのが、遊ぶ・学ぶといった体験なのだ。

長谷川氏自身、クリエイティブ職であることから独自かつ自由な働き方をしていたが、今では確実に、豊澄氏といる時間の方が長いと笑う。「この人と働くこと」が価値になる。これもウェルビーイングオフィスの魅力となる。

Z世代にとっては、ウェルビーイングは当たり前

「小学生の中学受験で、ウェルビーイングの問題が出るんですよ」と豊澄氏。

横須賀線の車内広告で見かけた中学入試問題。そこには「幸福度とウェルビーイングの違いを説明しなさい」「あなたが思うウェルビーイングな状態とは何か」といった設問があったという。

こうした教育を受けた人たちが、これからどんどん社会に出てくる。ウェルビーイングに対応していない企業は、そもそも就職先に選ばれなくなる可能性が高い。

実際、ある企業で入社1、2年目の社員を対象に実施された「会社に求めること」に関するアンケートでは、「従業員の健康に力を入れている」が5位にランクイン。かつて常にベスト3から落ちなかった「オフィスリッチ・ビルグレードの高さ」が4位に後退し、代わりに「仕事の場所にバリエーションがある」「福利厚生が充実している」が上位に来ている。

その背景には、大学のキャンパス環境の変化もある。某大学の校舎では、産官学連携のための空間として、まさにウェルビーイングを体現した設計になっている。こうした環境で学んできた学生にとって、「ウェルビーイング」な環境は当たり前。今後は、企業も当たり前のようにウェルビーイングに取り組む必要がある。

一方で、企業側は人材不足が深刻化する中、採用活動に多額の投資をしている。しかし、受け入れるオフィス環境に投資する企業は少ないのが実態だ。

豊澄氏は、人的資本経営の観点からウェルビーイングに取り組むことを提案する。

日本では離職率の違いを明確にデータ化するのは難しいが、エンゲージメントが高ければ離職率は低くなる傾向がある。その相関関係を前提に企業と対話を重ねているという。

2030年、ウェルビーイングがインフラになる日

企業の垣根を越えた交流が生まれる「コミュニティ」エリア

「缶蹴りができるぐらいがちょうどいいんですよ」

長谷川氏は日本のウェルビーイングオフィスをこう表現する。30年以上ワークプレイスデザインに携わってきた経験から生まれた、この比喩。缶を蹴る場所はオープンで、みんなが隠れる場所もある。視認性と心理的安全性。開放感と隠れる場所。そのバランスが大切だと話す。日本人は特に、少し隠れた場所を好む。休憩スペースがオフィスの真ん中にあったら休みにくい。

ちょっと見えにくい場所の方が、使いやすく、休みやすいのだ。

こうした細やかな配慮の積み重ねも、オフィスをウェルビーイングな場所に近づける。そして数年後、それは「特別なこと」ではなくなる。

豊澄氏は、「次第にウェルビーイングの基準のようなものが見えてきて、それがビルの標準となり、スペックインされることが当たり前になる。それにより、多くの人が意識せずとも恩恵を受けて、ウェルビーイングが実現されていく世界を目指したい」と話す。

その日を見据えてpoint0は実証を重ね、ノウハウを蓄積し、次の世代に引き継いでゆく。

そして今、point0の事業は、「サテライト」オフィスの開発へと広がっている。提携企業のオフィス開発をWELL認証コンサルティングとしてサポートし、point0オフィスは、提携先を含め全国18拠点に拡がっている。そして、point0参画企業の拡大やパートナー連携に伴い、登録者数は40万人を超え、日本最大規模のコンソーシアムへと成長を続けている。

point0のウェルビーイングな環境が、そこで働く人のエンゲージメントと生産性を高め、コラボレーションとイノベーションを生み出していく。ウェルビーイングが「当たり前」になる2030年に向けて、point0事業の成長も後押ししていくに違いない。

DATA

・名称:point 0 marunouchi
・所在地:東京都千代田区丸の内2-5-1 丸の内2丁目ビル 4F
・開設:2019年7月
・面積:328坪(約1,083㎡)
・インテリアデザイン:クラインダイサムアーキテクツ
・内装設計・施工:株式会社オカムラ
認証:2024年10月 WELL v2 プラチナ

Interview

豊澄幸太郎氏(右)

株式会社point 0 取締役副社長
WELLAP
パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社
ソリューションエンジニアリング本部
Wellマーケティング・営業推進部 課長


長谷川修氏(左)

株式会社point 0 取締役
株式会社オカムラ
オフィス環境事業本部 営業本部 首都圏営業本部
シニアクリエイティブディレクター