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パナソニック株式会社エレクトリックワーク社(以下、パナソニック)のworXlab(ワークスラボ)は、ウェルビーイングオフィスの実証実験を公開するライブオフィスとして、2020年12月に開設。パナソニックの強みである、光、空気、音、香り、映像などのソリューションを活かして、オフィスの新しいあり方を提案している。従業員や顧客との会話を通じてニーズや課題を把握し、センシングやアンケートから得たデータ、WELL認証を基軸とした空間設計などを活用して、継続的にアップデートしてきている。そのパナソニックが提案するコーポレートウェルネスとは。

コロナ禍が変えたオフィスの意味

2020年、新型コロナウイルスの感染拡大は、日本のオフィスのあり方を根底から変えた。在宅勤務が急速に広がり、多くの企業が「オフィスは本当に必要なのか」という問いに直面することとなった。

しかし、パンデミックが落ち着きを見せ始めた2022年以降、企業が向き合うことになったのは、新たな課題だった。「ニューノーマル時代」と呼ばれるこの時期、オフィス回帰が始まり、オフィス環境に関する新たな問題が顕在化した。

パナソニックが東京汐留ビルに開設した実証実験施設「worXlab」は、まさにこうした時代の転換点で生まれた。2020年12月に第1世代が誕生し、2025年には第5世代へと進化を遂げている。その進化の過程は、日本企業がオフィス環境とウェルビーイングにどう向き合ってきたかの縮図といえる。

Well-being事業開発室、開設の背景

パナソニックがメーカーとして培ってきた映像や換気、音響のテクノロジーが存分に活かされている

日本におけるオフィス環境への関心は、実は新しいものではない。1990年代のバブル経済期には、豪華なオフィスビルが次々と建設されたが、その焦点は「企業のステータス」にあった。2000年代に入ると、ITバブルとともに「フリーアドレス」や「オープンスペース」といった概念が輸入されたものの、多くの日本企業では従来型の島型配置が主流であり続けた。

転機となったのは2010年代後半。「働き方改革」が政府主導で推進され、長時間労働の是正や生産性向上が叫ばれるようになった。しかし、当時の議論は主に「労働時間の削減」や「在宅勤務の導入」に焦点が当てられ、オフィス環境そのものが従業員の健康や生産性に与える影響については、十分に議論されていなかった。

2019年には「健康経営」という概念が経済産業省によって推進され、従業員の健康を経営課題として捉える企業が増え始めた。

パナソニックにWell-being事業開発室の前身となる部署が開設されたのは、まさにこの2019年10月。社長直轄で、『人』起点での事業開発をミッションとして集まった4人のメンバー。間もなくコロナ禍に入り、オフィスに出社できずウェブ会議を重ねるなかで出てきたのが「ウェルビーイング」という言葉だった。

パナソニックの研究部門では既に、2017年にWELL認証の開発機関であるDelos社が運営する空間健康分野のリサーチセンター「Well Living Lab」の創設メンバーとして参画しており、健康環境の研究・実証を推進してきた経緯がある。パナソニック門真拠点では、実装も進められており、照明、音響、空調、換気システムといった設備機器メーカーとしての強みを活かしてオフィスを開発することは、社会貢献にもなると判断。

Well-being事業開発室としても、WELL認証による「ウェルビーイング」実現への可能性に着目し、2021年3月に、worXlabで「WELL Health Safety Rating」を取得。日本で、WELL認証支援への取り組みをスタートするに至る。

2020年代に入ると、ESG経営の機運が高まる中で、従業員の健康や幸福を重視する「ウェルビーイング経営」が企業の競争力を左右する要素として注目されるようになった。投資家からも、人的資本への投資を重視する声が高まり、2023年には人的資本開示が義務化。従業員のウェルビーイングは、企業価値を測る重要な指標として位置づけられるに至っている。

WELL認証が示す「健康的なオフィス」の基準を、パナソニックの技術が可視化

科学的根拠に基づいて設計されているオフィス。オフィススペースを3つに分け、賑やかなエリアから集中できるエリアまで、照明のトーンでも演出

WELL認証とは、米国のDelos社が2014年に開発した建築物の空間評価システムである。従来の環境認証が、CO2の排出基準順守やエネルギー効率など「環境負荷の低減」に焦点を当てていたのに対し、WELL認証はその空間で過ごす人の「心身の健康」という視点を中心に据えている点が画期的だった。

評価は10のコンセプトに基づいて行われる。空気、水、栄養、光、運動、温熱快適性、音、材料、こころ、そしてコミュニティ。これらの要素が、科学的根拠に基づいて総合的に評価される仕組みだ。

パナソニックがこの認証に着目した背景には、同社が長年培ってきた「空間の健康」に関する技術的蓄積があった。前述の2021年3月に同社が取得した「WELL Health Safety Rating」は、コロナ後の空気の安全性を示せる第三者機関による認定として、世界的にも爆発的に広がり、WELL認証の認知が大きく広がるきっかけともなっている。

「worXlab」の進化にみる、日本のウェルビーイング意識の変遷

自然を感じさせる映像と音響、空調でやさしく揺れる葉が、五感に働きかけて気持ちのリセットを促す
気分転換と交流を促進するSWiTCH SPOT(スイッチスポット)

2025年までに5回のアップデートを重ねた「worXlab」には、従来の日本のオフィスとは明らかに異なる空間が広がる。解放感のあるエントランスから、自然に交流が生まれる動線が施される一方で、心地良く集中できたり、休憩できるスペースにもアクセスしやすい。随所に配置された観葉植物には、そよ風のようなやさしい風があたり、葉の揺らぎが自然のなかにいるようなリラックス感をもたらしてくれる。

「単に見た目が美しいだけではありません」と、パナソニックのWELL認証取得支援チーム神谷学氏は説明する。「すべての要素には科学的根拠があるのです」たとえば照明一つをとっても、単に明るさを確保するだけではない。人間の概日リズムに配慮し、時間帯によって色温度を変化させることで、日中は覚醒を促し、夕方には自然な眠気を誘導する。

スタンドカフェスペース。WELL認証の「栄養」要素として、サラダやフルーツも完備

空気質に関しても、CO2濃度を常時モニタリングし、最適な換気を自動で行うシステムが導入されている。

また、オフィススペースを3つに分け、照明と音で、コミュニケーションを促す賑やかなエリアから、集中することを促すエリアまで、三段階で環境を演出している。

こうした環境づくりに、パナソニックがメーカーとして培ってきた映像や換気、音響のテクノロジーが存分に活かされているのだ。

worXlabの進化は、日本企業のウェルビーイング意識の変遷とも重なる。

移動式扇風機やホットカーペット、照明や充電器も整備。快適な環境を自分でつくることができる

第一世代(2021年度)では「コロナ禍」への対応として、感染症対策が重視された安心・安全なオフィスづくりに焦点が当てられた。空気対策や換気システムの最適化が中心テーマとなり、「健康」の概念が「感染予防」と強く結びついていた時期だ。

第二世代(2022年度)になると、「ニューノーマル時代」という言葉とともに、オフィス回帰が始まり、音や温熱対策といった快適性への配慮が加わり、単なる安全性から、働きやすさへと視点が広がっていった。

第三世代(2023年度)、第四世代へと進むにつれ、焦点は「コミュニティの再構築」へと移っている。オフィス内での交流が重要視されるようになり、コミュニケーションの交差点をいかに設計するかが主要テーマとなった。

そして2025年度の第五世代では、「Wellbeingを科学する」というテーマが掲げられた。オフィス診断レポートサービスやWell-beingアンケートといった、定量的な評価手法が導入され、「科学的に最適化された環境」へとシフトした。また、「コミュニケーションの交差点」の場をオフィスに取り込むことにより、WELL認証のイノベーションセクションにも認められるなどして、2025年6月に「WELL v2 Platinum」を取得。より先進的な取り組みへと発展している。

メーカーならではの解析技術・設備知識を活かしたトータルソリューション

解放感豊かな執務環境から、集中できる個室ブースまでさまざまに用意されている

パナソニックのWELL認証取得支援サービスの特徴は、「コンサルティング」から「実装」までを一連で提供できる点にある。多くのコンサルティング企業が助言にとどまるのに対し、パナソニックは設備機器メーカーとしての強みを活かし、計測から設備導入、そして認証取得から、その後の運用までを一気通貫でサポートできる体制を整えている。

実際、WELL認証の取得プロセスは複雑だ。評価項目は100以上にのぼり、それぞれに詳細な基準が設定されている。審査資料は英語での提出が求められ、現地での実地審査も必要となる。さらに認証取得後も、3年ごとの更新手続きがあり、継続的な環境モニタリングが求められる。

具体的には、WELL認証に精通した専門コンサルタント(WELL-AP:Accredited Professional)が、IWBIに認められた国内唯一の居住者評価機関(WELL-ASP:pre Approved Service Provider)としてWell-Beingアンケートも活用し、現状把握、課題抽出を行い、データでオフィスの課題を可視化し、優先順位付けを行う。

その結果をもとにしたオフィス創りのコンセプト設定では、ワーカーや経営者の内面にある働き方やオフィスに対する思いを言語化するため、有識者によるセミナー、ワークショップを実施。

そして、要件定義・レイアウトイメージを作成し、3Dでレイアウトイメージを提案する。また、課題を「満足度」と「重要度」で四象限に分けて可視化し、どのように取り組みを進めていきたいかを、顧客とともにゴールセッティングをしていく。

よりウェルビーイングな空間を実現するテクノロジーを駆使した様々なソリューションを提案、実装、運用までをサポートしている。

パナソニック自身も、門真拠点のオフィス、東京汐留ビル、広島ビルなどでWELL認証を取得しており、「自ら実践する」姿勢を貫いている。WELL認証取得実績は世界で27,084件(2025年3月時点)に達しており、日本国内でもプラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズ、プレ認証と、さまざまなレベルでの認証取得が進んでいる。

パナソニックは多数のWELL認証取得をサポートしている。健康経営に関心のある企業のオフィスなど、感度の高い組織を中心に認証取得が広がっている状況だ。

オフィスから、ウェルビーイングを世の中に浸透させる

オフィスから会議室への通路は、映像と光が、10 種類のウェルネスシーンを演出

世界的には、WELL認証を取得したオフィスで働く従業員の生産性が向上し、離職率が低下したという研究結果も報告されている。

日本では、WELL認証による経済効果につながる研究報告が少ないものの、パナソニックでは、WELL認証を取得することで、従業員の満足度とエンゲージメントが高いというエビデンスが、これまで蓄積したデータから確認できている。

worXlabでも、収集データや従業員アンケートから得た社員の声をもとに仮説検証を繰り返しながら、Well-beingの体現と、投資対効果を追求している。

2025年の第5世代worXlabへのアップデートポイントとなった下記の3点は、今後のウェルビーイングオフィスづくりの投資対象としてヒントになる。

1点目は、コミュニティの再構築を促す交流を重視したオフィス設計。2点目は、ワークポイント数と、レイアウトの最適化。

3点目は、音の考え方と利用用途に配慮したゾーニング計画だ。パナソニックでは、このようにライブオフィスworXlabでの実証実験をもとにエビデンスを蓄積し、「Well-beingを科学する」をテーマに認証取得のためのコンサルティングにとどまらない、伴走型のWELL認証取得支援ソリューションを提供していく計画だ。神谷氏は、こう話す。

「つくりたいのは、オフィスではなく、一人ひとりのウェルビーイングです。メーカーの強みを活かしたコンサルティングとソリューションで、働く一人ひとりの方が最高のパフォーマンスを発揮しやすくなる環境づくりに寄与していきます。オフィスからウェルビーイングを浸透させていくことを、社会的役割として果たしていきたいです」

DATA

・名称:worXlab
・所在地:東京都港区東新橋1-5-1パナソニック東京汐留ビル
・開設:2020年12月
・面積:242坪(約800㎡)
・運営主体:パナソニック(株) エレクトリックワークス社 Well-Being事業開発室
・認証:2025年6月16日 WELL v2 Platinum(プラチナ)

Interview

神谷 学氏


パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社
ソリューションエンジニアリング本部 Well-Being事業開発室
Wellマーケティング・営業推進部 部長